そろそろ本気を出してやる。

そんな「俺」の奮闘ぶりが滑稽に描かれていく。でも結局のところ、等身大の自分自身に向き合えない彼は、いつまでたっても駄目人間から抜け出すことができない。彼は一向に結果を出せず、悶々とのたうちまわり続けるのである。そしてそのあげく、小手先でこねくり回して自分の作品をますます劣化させていく。「俺」は、厳しい現実から目をそらそうともがく。ゲームやら、近所の子供たちとの野球遊びやらに興じる。いつまでも逃げ続ける。
この腑抜けた中年男の周囲にいろいろな人たちが配置されていて、腑抜けとの関係の中でこの作品に奥行きを与えている。父親、娘、バイト先で知り合った青年など、彼らはみなどこかしら味わいがあり、読み進めていて、それぞれいろんなものを抱えて暮らしているんだよなあ、なんてしみじみした。彼らが見守る中、あの腑抜けはこれからどうしていくのだろう。転落はまだ続くのだろうか。
漫画を読むのは約30年ぶり。面白いよ、といって友人が貸してくれた。で、借りたその晩に2冊とも読み終えてしまった。たしかに面白かったけれど、なぜだかほろ苦い余韻が残った。