2009年02月22日

「ロルナの祈り」 揺れる心、揺らぐ虚実の境界

ジャン=ピエール、リュック・ダルテンヌ監督 『ロルナの祈り』 (恵比寿ガーデンシネマ)

原題:『LE SILENCE DE LORNA』

女は法の網の目をかい潜り、新たな国籍を得る。「夫」は生死の境界をさまよう。

le_silence_de_lorna00.jpgたしかに、結婚とは曖昧な制度だと思う。というか、制度自体は確かなのものだと思うけれど、その土台となる人間の感情、とくに恋愛の感情については、それを確かめることが当事者同士でさえ不可能であることから、その存在は限りなく曖昧にならざるをえない。有ると思えばあるし、無いと思えばないのである。結婚という制度は、この儚さのうえに成り立っている。

彼女は国籍のため、カネのために結婚をする。つまりそれは虚偽の結婚である。法の上では真なのだけれども、情の上では嘘である。だから、彼女と「夫」の寝室は厳密に仕切られている。しかし、月日の流れの中で、「夫」の抱える危うさ、ある種の無垢に触れるうちに、彼女の胸の内に情が芽生え始める。心が揺れる。虚実の境界が揺るぎ、曖昧になる。と同時に、彼女の暮らしを包む嘘の世界が崩れ始める。

意表を突く恋愛劇だった。カメラは、ほかのダルテンヌ作品とは違って、彼女の傍らに寄り添うというより、むしろある一定の距離を保ちながらその姿をみつめていた。たぶん、この作品の主軸は、人間の心とそれに繋がる世界の虚実の曖昧さをロルナの心情の揺らぎを通して描くことにあったのだろう。つまり、この作品のすべてはロルナを演じるアルタ・ドブロシの内面に隠されていたのだ。だからこそあの結末に至るのだろうし、カメラは彼女の姿を執拗に捉え続けなければならなかったのだ。

「らしさ」が薄れているぶん、ダルテンヌ作品としては評価が分かれると思うけれど、私的にはよい作品だと思えた。とくに、自転車に乗る「夫」と戯れるロルナの表情が新鮮で、その瞬間にみせる彼女の明るい笑顔がラストの暗さとの対比の中で強い印象を与える。冷酷な世界。その虚実に翻弄されながらも、彼女はその胎内に大切な秘密を隠し続ける。それが彼女に残された唯一の真実だったのだろう。


posted by Ken-U at 23:06| Comment(2) | TrackBack(2) | 映画(その他の国) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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