2009年04月27日

「上海」 近代に引き裂かれた男、女

横光利一著 『上海』 (岩波文庫)

多人種が入り乱れる1920年代の上海。街に暴力の気配が増す中、男は一発の銃弾を目撃する。

shanghai01.jpg当時の上海は、この世の縮図のような場所だったのかもしれない。街には路地が縦横に走り、そこにあらゆる類の商店、民家、あるいは飲み屋、売春宿などが軒を並べる。その背後には高層ビル群がそびえ立ち、汚物まみれの黒ずんだ街を見下ろしている。そこに暮らす男たちはある種の閉塞状況に陥っており、その危うい均衡の中で、街が暴力によるカオスに包まれることを待ち望んでいるようにみえる。街は、不気味なひとつの流動体の如く振舞いながら、彼らを丸呑みにしたまま暴力の渦の中へと没入してゆくのだ。

話は参木を軸に進められるけれど、それと並行してお杉の生き様が描かれていて、その対比が本作に奥行きを与えている。とくに、お杉の視点からこの話が結ばれるところに好感を持った。

男は女を欲していて、女も男に想いを寄せているにもかかわらず、彼らは交わることなくすれ違い続けなければならない。なにかの価値観から、いや、価値らしい価値などどこにもないのかもしれないけれど、男は女を拒み続けるのだ。行き場のない女は娼婦に身を落とし、男は死に場所を求めるように街をさまよう。救いなき世界。終わりのない暴力は極限まで膨張を続ける。


posted by Ken-U at 22:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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