深井晃子著 『ファッションから名画を読む』 (PHP新書)
芸術家はモードを愛した。

時代とともに変化するモードの歴史が、その時々の名画とあわせて語られている。扱われる絵画は主にルネサンス期以降のもので、中でも、印象派の画家たちとモードの繋がり、女性の身体を拘束し続けるコルセットの在り方などに重きが置かれている。
政治や産業の遷り変わりともに、衣服の素材、かたちが変化していく。たとえば、欧州の貴族階級に身を置く女性たちは、産業革命による綿織物の普及とともに、絹素材で仕立てられた複雑な構造を持つ衣服ばかりでなく、綿をつかった簡素なドレスを身につけるようになり(素材だけではなく、スタイルそのものが簡素な英国風となる)、あるいは鉄の大量生産によりコルセットが普及すると、衣服だけではなく、身体そのものが本来の輪郭から大きく引き離され、歪められてしまう。こうした衣服(身体の輪郭)の変遷は、かつて絵画の主流であった肖像画から多くを読み取ることができる。
十九世紀以降、産業構造の変化により新富裕層と中産階級が生み出されると、それぞれの市場に向けてオートクチュール、プレタポルテが創出され、又、ヴァカンスの普及など、女性のライフスタイルに多様なヴァリエーションがみられるようになり、モード界はかつてないほどの華やぎをみせる。さらに二十世紀には、ポール・ポワレが先陣を切り、コルセットから開放された女性の身体をきらびやかな衣服で包み、続くココ・シャネルは機能性を重視するアクティヴな衣服を提案して、社会進出を目指す女性たちから熱狂的な支持を受ける。印象派の画家たち、そしてその後に続く抽象画家たちはその変遷の目撃者であった。
ほかにも、染料の開発・普及とモード、絵画の発展の関係であるとか、東洋趣味とジュエリー、パラソルの関係など、先日の『阿修羅のジュエリー』(
過去記事)にも繋がる文章がみられ、また読了後に観た『ラグジュアリー展』のよい予習にもなった。やはり、モードは社会と個人の関係を映す鏡なのだと思う。
posted by Ken-U at 18:24|
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