絶望と孤独。男は死の暗闇に惹かれる。

あるひとりの男が、恋人を亡くし、醜い世界にひとり取り残されて、死を想う。そして拳銃を手にし、それを口に咥えてみたりもするのだけれど、しかしうまく扱うことができずに七転八倒。その様子がスタイリッシュに、かつ滑稽に描かれている。当時のモードに身を包んだ美男美女が、擦れ違いざまに視線を交わし、互いの孤独を舐めあう様子はあまりに現実離れしていて魅惑的だ。
ところで、女は穢れた生き物なのだろうか。しかし女を排除し、男だけの純粋な世界を目指そうとするとき、その清き世界は破滅に向かう。純度の高さは、脆さと一体である。男たちは、欠落を補えぬまま空虚の地平で干乾びるしかない。
後半少し散漫になり尺が長く感じはしたけれど、それなりに楽しむことができた。映像の中で印象に残ったのは、出勤前、完璧に身なりを整えた男が家の中を歩くのだけれども、その姿をガラス越しに捉えたショットである。硝子が光を反射し、瞬間、男の姿が透明にみえる。同じショットが作中で繰り返され、その光景が、自身の存在が透明であることを度たび口にする彼の台詞と重なる。完璧で、しかし空虚で、砂漠のような、あるいは氷原のような世界を生きる。その無様な姿を、ユーモアを交えつつ滑稽に描いている点がこの作品の救いなのかもしれない。