ソフィア・コッポラ監督 『SOMEWHERE』 (新宿ピカデリー)
閉塞の中、男は車を棄てた。

ソフィア・コッポラの新作。主人公が裕福な世界に暮らしていて、孤独で、といういかにも彼女らしい世界を描いた作品だったけれど、これまでと大きく異なる点はあって、それはノイズの扱い方なのだと感じた。過去の作品では、悪くいえばサントラのプロモーション・フィルムみたいな演出というか、作品世界からノイズが排除され、そのかわりに趣味のよい音楽がひたすら流れ続ける綺麗な画づくりという印象があって、眺めながら、いつもイヤホンをつけて暮らしている人に世界はこのようにみえるのだろう、しかし現実の世界はノイズに覆われていて、鳥がさえずったり、木の葉が擦れ合ったり、とつぜん地鳴りが響いたり、サイレンが鳴り響いたり、笑ったり、泣いたり、溜息をついたり叫んだりしているわけで、そうした生々しさというか、この世界との距離感に少し物足りなさを感じる部分もあったのだけれども、今作は違う。冒頭から車のエンジン音(とくに止まったあとの余韻)がとても印象的で、その後も、とくに事件らしい事件が起きるわけでもなく、主人公の孤独を包むこの世界の有り様が淡々と描かれてゆくのである。僕は、その描写にある種の成熟を感じた。
車を乗り捨てた男の行く先には何があるのか。光か、闇か。想いをめぐらせながら、垣間みえた笑みに未来を感じた。まだみえぬ未来に向けて、歩く。
posted by Ken-U at 22:47|
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