原題 『Be Kind Rewind』
閉鎖の危機に瀕する小さなレンタルビデオ店。ある日、妄想癖のある男が押しかけてきて店に致命的なダメージを与える。店内にあるすべてのVHSから映像が消失してしまったのだ。

そのレンタルビデオ店は、近代建築物の隅にへばりつくように建てられている。どうにかぎりぎりのところに踏みとどまっている、その在り方もよかった。しかし、偽善者たちはいかにも偽善的に立ち振る舞い、その圧倒的な力で映画を踏み潰して、この小さな店を消し去り、この世のすべてを平坦に均そうとする。悲劇である。げらげらと笑ってしまったけれど、この話には哀しい側面がほかにもいろいろとある。だから喜劇的でありながら、どこか哀しいのだ。という意味で、本作は、悲喜劇的な成り立ちをしているこの世界をうまく表現できていると思う。それでも嘘と妄想の力をもってすれば、それをかたちにする能力を磨き、情熱を持つことができてさえいれば、均質に向かおうとするこの世界のあちらこちらに特異点をつくることはできる。人にそう思い込ませるだけの力がこの作品には籠められている。