原題 『INTO THE WILD』
すべてを捨て去り、野生に向かう。

この作品の味わいを深めているのは、ショーン・ペン監督の主人公に対する距離感とそのあたたかな眼差しだと思う。彼は、青年の未熟さを未熟さとして描きながら、同時に、その至らなさをやさしさでくるみこんで、その死の悲劇性をある意味において救おうとしている。青年のとった行動はあまりに無謀で、結果としてそれは過ちだったといえるのかもしれないけれど、しかし青年が抱えていた想いや衝動は大いに共感しうるものであり、鑑賞後、こうして生き延びている私にはいったい何ができるのだろう、と考えさせられてしまう。
繰り返すけれど、本作におけるショーン・ペンの演出は優れていると思う。青年を手放しに英雄視することなく、適度な距離を保ちながら、その様子を見守るすべての人たちになにかしらのメッセージというか、それを遺言といってもいいのかもしれないけれど、ある想いを託そうとする。そこには、青年の死を無駄にはしたくない、という監督の強い意思が感じられる。
全編を通して映し出されるアメリカの自然がきらきらとしていた。青年は、車を捨てて自然界に身を投じたのだが、皮肉なことに、最後にはまた車に行き着いてしまう。そこで彼は、まず火を起こし、ナイフを研ぐのである。つまり、人間は人間であり、自然と一体となって暮らすことはそもそも不可能なのだ。だからわたしは、成熟した眼をもって、新たな共生の時代のために、自然との関わり、そして人間同士の繋がりについて考え直さなければならない。