瀕死のフラココ屋とその周辺。いろいろな人たち。

でも、この『夕子ちゃんの近道』には過去の描写がない。少し噂話が添えられる程度で、あとはほぼ今だけが語られる。ただ、そのかわりに異界の役割を担っているのが「フラココ屋」なのだと思う。そこでは価値の転倒があり、既成の価値観から少しはみ出た人たちの心を惹きつけ、それぞれを繋ぎ合わせている。この摩訶不思議な魅力あふれる自称アンティーク店には、ところ狭しと過去の遺物が並べられている。断片化した過去と、その再編成。そして新たに生まれ直す価値。人間の創造のプロセスとフラココ屋の在り方にはどこか似たところがあるように思える。だから意外に多くの人たちの気を惹くのだろう。
ただ、忘れてはならないのはフラココ屋は瀕死の状態であること。意外に多くの人が関心を持ち、それなりに入店もあるけれども実売は乏しいのが現実で、その経営は厳しくなる一方だ。なんとなくいいなあ、なんて思いながら、そしてその存在の危うさが薄々わかっているとしても、誰もそこにカネを落とすまではいかないのだ。いうまでもないけれども、それがこの世の常なのである。
「買わないファンなんて」店長はけっという顔をした。(p.46)
はたしてフラココ屋に未来はあるだろうか。やはり、潰れてから、手遅れになってから、その存在を惜しむ声が上がったりするのではないだろうか。ああなんて冷酷な世界なのだろう、と落胆する一方、私は私なりのフラココ屋を持たなければ、と想いを巡らせてみたり。
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