2006年02月02日

「僕のニューヨークライフ」 繰り返す過去は断ち切れるか

昨日の恵比寿。ウディ・アレン監督の『僕のニューヨークライフ』。原題は『anything else』

ウディ・アレン出演作。彼は年老いたコメディ作家、ドーベルを演じている。コメディ作家といっても、パブリック・スクールで教鞭をとりながら、その傍らで執筆活動をしているセミプロ作家である。いい年をしながら、彼はまだ創作だけで食べていく自信を持てずにいる。

anything_else01.jpgドーベルはユダヤ人である。彼の頭の中にはアウシュビッツの恨みが今も残っていて、その記憶が彼を苦しめ続けている。それなのに、巷はユダヤが戦争の元凶などと言っている。この世間の風評は彼を苛立たせ、思考の歯車をどこか狂わせてしまっている。

豊富な知識と(笑えない)ジョーク、それに湧き出る妄想をない混ぜにしながら、ドーベルはその想いをジェリーに伝える。ジェリーは若手のコメディ作家で、ドーベルは若き日の自分を彼の上に重ねているようだ。ドーベルはジェリーの仕事や恋愛、セックスなどの相談を受けながら、彼に過去を断ち切るよう諭し、ある提案をする。

*****

ドーベルとジェリーは度々同じ色の服を着ているせいもあって、同一人物であるかのように見えてしまう(といっても、ルックスがあまりにも違うのだけど)。だから今回は、仕事や恋愛に関する葛藤を分身のジェリーに任せて、ドーベルは思う存分に狂っている。自分の身は自分で守れと言ってジェリーにライフルやサバイバル・グッズを無理やり買わせるところや、強面の男たちの不躾な態度にキレて彼らの車を叩き壊すシーンなどはあまりにも馬鹿馬鹿しく、笑うに笑えないけれども、やはりゲラゲラと笑ってしまう。

悲惨な過去に縛られ、過剰な行動で周囲を混乱に陥れて、仕舞いには自滅の道を歩んでしまう狂ったユダヤ人を、ドーベル(というかアレン)は自虐的に演じて見せている。その自縛の苦しみがあるから、ドーベルはジェリーに過去を断ち切れと諭すのだろう。過去を切り捨て、欲望に対して忠実になることで、死の恐怖は遠ざかり、充実した人生が獲得できるのだ。そう狂ったドーベルは主張している。

*****

とても複雑なラストだった。あなたではない誰か、ここではない何処か、今に満たされずに他の何かを求め続ける若者たちの姿に、ウディ・アレンはどのような視線を送っているのだろう。そこには温かさや冷たさ、あるいは諦念などの様々な心情が込められているような気がする。


posted by Ken-U at 16:14| Comment(2) | TrackBack(1) | 映画(USA) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Ken-Uさん、こんにちは。TB&コメントありがとうございました。
やはり『メリンダとメリンダ』『さよなら、さよならハリウッド』を境に、
ウディ・アレン作品が変わってきているように思います。
『さよなら〜』では父親が、『僕のニューヨーク』ライフでは若者が、
初めてクローズアップされましたから。
Ken-Uさんが以前おっしゃっていた、『おいしい生活』と『ギター弾きの恋』が
セットであるように、『僕の〜』と次の『マッチポイント』もセットで語られるべき
作品かもしれませんね。今年中に『マッチポイント』が見られればいいのですが。

『僕のニューヨークライフ』では、ユダヤ人をめぐるセリフがいつも以上に
多かったのも見逃せません。本気なのか冗談なのか、どちらとも受け取れないところに
アレンの微妙なスタンスを表しているのかもしれませんね。
Posted by 丞相 at 2006年03月01日 07:45
丞相さん、こちらこそTB&コメントありがとうございます。

たしかに、作品の変化は感じますね。年が年ですから、おそらく”死”というものがいよいよ身近に感じられるようになってきたせいもあるんじゃないでしょうか。
その意味で、ラストの前にドーベルがジェリーを呼び出す場所が興味深く感じられました。ちょっと洞窟っぽいところで、まわりの緑は『アワーミュージック』の天国に似ているような気がして面白かったです。

死に対する恐怖と、それがあまりに近づいたことによる開き直り。最近の作品では、その相容れないふたつの要素が入り混じりながら、独特の笑いを生み出しているような気がします。
Posted by Ken-U at 2006年03月01日 16:10
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Excerpt: 『僕のニューヨークライフ』公式サイト 監督:ウディ・アレン出演:ウディ・アレン ジェイソン・ビッグス クリスティーナ・リッチほか  【あらすじ】(goo映画より)マンハッタンに住む21歳..
Weblog: Swing des Spoutniks
Tracked: 2006-03-01 07:37
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