猫とは無関係の短編集。

始めは、作中の会話が会話になっておらず、登場人物ふたりの間で交わされるべき言葉が交差せずに、そのまま並行にこちらに向かって投げかけられているようで、それが平坦に感じられ、あるいは長い説教、あるいは演説を聞かされているような気分になり、なかなか作品に入りこむことができなかった。でも、「チノ」あたりからになるだろう、舞台がこの世から離れていくにしたがって、幻想性が増し、その毒に酔うことができて、そこから作品世界に没入した。
私はカミの悲哀が理解できた。それは、書き手である私が常にさらされている恐怖だからだ。自分の滅亡と引き替えに書くことは始まるからだ。でも、作家になるということはその覚悟を決めることだ。いや、作家に限らない。継承を実践していくとはそういうことで、誰もが引き受けなければならない。(p.138)
私が壊れ、溶けてしまうことにより、悦びが湧きあがって、同時に跡を継ぐものが生まれる。引用部分に付箋を貼ったのは、当時、自己を滅することと、神と、結ばれと、ムスコ、ムスメのことなどを散漫に考えていたからだろう。