2006年03月23日

「ホテル・ルワンダ」 境界線から生み出される憎悪

曇り。銀座。テリー・ジョージ監督『ホテル・ルワンダ』。原題:『HOTEL RWANDA』

平日の昼間、それも公開されてからそれなりの期間が経っているというのに、銀座の劇場はとても賑わっていた。満員に近かったと思う。公開に至るまでの経緯がメディアにとりあげられたことによって、多くの人々がこの作品に関心を持ち続けているようだ。メディアが人々に与える影響力には改めて驚かされる。

hotel_rwanda001.jpg実際に起きたルワンダ大虐殺事件(1994年)を素材にして、この『ホテル・ルワンダ』は製作されている。主人公のポール・ルセサバギナは実在する人物で、やはり高級ホテルの支配人としてあの混乱を生き延びている。当時行われた虐殺行為は100日間でおよそ100万人の命を奪ったのだという。醜い現実がドラマ化されたこの作品を眺めることによって、人間が社会に引く境界線について改めて考えさせられた。

ルワンダ国内で発生した民族紛争によってこの大虐殺事件は引き起こされた。その背景には西欧の植民地政策がある。第1次世界大戦終結後、ベルギー政府はルワンダの人々をツチ族とフツ族に仕分け、その民族の間に深い境界線を引いた。ルワンダで暮らす人々はその境界線によって引き裂かれ、対立するようになったのだ。そしてその境界線から生み出される憎悪は多くの人々の命を奪い、そしておそらくごく一部の人間に富をもたらしているのだろう。

*****

ルワンダに引かれた境界線をめぐる惨劇を描きながら、この作品はもうひとつの境界線にも光を当てている。それは高級ホテルの支配人として働くポール・ルセサバギナが引く境界線であった。

ポールはルワンダの有力者や富裕層に属する人々と関わる仕事に就いており、ホテルという組織の中で、そしてルワンダ社会の中でも、自分が支配層に近い位に属しているという自負を持っていた。だからポールは「品位」という言葉を好んだのだ。そして彼は自分とその家族(妻と子供たち)を大切に考える一方で、その外側(近隣のルワンダ人)との間には境界線を引いていた。虐殺行為が始まる以前、そして始まった当初、彼は自分と家族のことばかりを気に掛けていて、隣人の命はやや軽んじて考えているように描かれている。

しかし虐殺行為が進むにつれて、ポールが抱いてた価値観は揺さぶられる。彼は自分とルワンダの支配層、そして西欧の人々との間に深い境界線があることを思い知らされるのだ。彼はその現実に愕然としながらも、自分がかつて引いていた境界線を見直していく。そして彼の境界線は揺れながらも広がりをみせ、家族とともに多くの隣人たちを包み込んでいく。その揺れ動く境界線の描写こそがこの作品の主軸なのではないだろうか。この作品が持つテーマは、実はとても身近なものなのかもしれない。

*****

低予算(おそらく)ながら、予想以上によく仕上げられた作品だった。やはり映像的には限界があったようにも感じられたけれど、よく練られた脚本によって、作品の品質が高いレベルに引き上げられていたと思う。

人々がメディアに煽られながら境界線を過剰に意識し、そこから限りなく憎悪を噴き出させていく姿には、いろいろと考えさせられることが多かった。

(関連記事:ルワンダ大虐殺を振り返る/2005/07/24)


posted by Ken-U at 00:21| Comment(7) | TrackBack(7) | 映画(その他の国) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Ken-Uさん、こんにちは。TB&コメントありがとうございました。
私の地元でも、公開から一ヶ月が経っているというのに満員になる回があるほどでした。口コミでも評判が広がっているようですね。

Ken-Uさんのおっしゃるように、フツ族・ツチ族と、そこに生きる人を恣意的に分けることで憎悪をあおり立てるのは大問題ですね。こういう憎悪は、どの時代・地域にも怒りうるものだと思います。ポールのように、自らの職務に徹することで憎悪と距離を置くこと、
私はその点が一番印象に残りました。
Posted by 丞相 at 2006年03月23日 08:13
丞相さん、

あらゆるものを仕分け、引き裂くという行為はある意味で進歩的であるようにも思えるので、これからの時代においても、同様の問題はあらゆる場所で発生しうるんでしょうね。

確かにポールはプロに徹した態度を貫いていて、この憎悪の連鎖には距離を置き続けていました。彼のその態度が多くの生命を救うための命綱のような働きをしていたのだと思います。
Posted by Ken-U at 2006年03月23日 13:10
>揺れ動く境界線の描写こそがこの作品の主軸なのではないだろうか。この作品が持つテーマは、実はとても身近なものなのかもしれない。

同感です。線引きをすると分り易いのですが、平行線を辿るだけで、解決できませんね。
クロスしてグレーゾーンにしていくことは、非常に難しいことではありますが、これからの生き方のポイントになると、本作は語っているような気がします。
Posted by マダムクニコ at 2006年03月26日 12:19
マダムクニコさん、コメントありがとうございます。

今はどちらかというと分かり易いものが求められているように感じられます。世の中には線引きをより明確にしたいという願望が多いのではないでしょうか。この作品が安易に消費されないことを祈るばかりです。
Posted by Ken-U at 2006年03月27日 12:38
どもご無沙汰です。
この記事見て「ホテルルワンダ」見て来ましたよ。トラックバックさせてもらいました。
Posted by imaima at 2006年04月02日 22:39
どうもご無沙汰です。
この記事見ていっちゃいましたか。こちらからもTBさせてもらいます。
Posted by Ken-U at 2006年04月03日 01:54
おひさしぶりです。TBさせてもらいました。
この映画、涙なしには見れませんでした。
いま、東ティモールが大変みたいなんだけど、おんなじような状況かもしれませんね。
Posted by あずーる at 2006年05月31日 23:35
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