
7月某日(金)
夜。逃げるように職場を出て、駅へ。彼女が待つ店に向かった。
新宿の街はまだ蒸し暑く、ぎらぎらとしていて、それでも地上を歩き、そして伊勢丹前、そこからさらに通りをふたつほど渡って、いわゆる二丁目エリアの手前から彼女にTEL。迎えにきてもらい、やっとのことでお薦めのタイ料理屋にたどり着いた。
なんやかんやで、会うのは一年ぶり。そういうと彼女は驚き、時の経つのは早い、歳はとりたくない、もう私は若くない、などとまくしたてた。たしかに、時は驚くほど早く流れる。でも、彼女がいうほどそれは悪くないことだと思うのだけれど。しかし我々はそれを受け入れるべきだよ、と笑いながら僕はいったのだけれども、僕の言葉は彼女の耳に届いていただろうか。
疲れてみえる。ずいぶん痩せたんじゃないか。とにかく、私はいいからたくさん食べなさい。話しながら、というか僕の英語がボロボロで、それで、日英混交のその場限りの言語で意思の疎通を図り、僕ばかりが食べ、毎度毎度ふたりで乾杯して、呑んで呑んで、そして気づくと夜半すぎ。
この春、彼女の紹介で転職した。そして試用期間が過ぎ、職場に適応できていることを報告して、でも大変そうだから一、二年したら次に移ったほうがいい、といわれ、そこで友情と利害の混濁。酔いがまわり、それでもビールを呑み続けて、その泡を眺めながら、この閉塞した社会で暮らすことの大変さを語り合って、将来は彼氏とバルカンに戻るかも、とこぼす彼女を眺めつつ、しかしここにも抜け穴的な時空があるんだよ、こんど紹介しよう、と心の中で呟き、別れ、喧騒を離れて、ひとり大通りで立ち尽くした。