
森山大道 『津軽』 (Taka Ishii Gallery)
久し振りに眺める森山大道のモノクローム。東北の陰翳が、印画紙に深く染み入っている。昔、一度だけ東北に足を運んだことがあるのだけれど、新幹線の窓から田園を眺め、恐い、と感じたことをいまでも憶えている。子供の頃から田舎の景色は見慣れているはずなのだけれど、南とは違う何かが東北の景色にはあるような気がする。影が濃いというか、深い。その影の向こうに何か恐ろしいものが隠れているような。
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蜷川実花 『noir』 (小山登美夫ギャラリー東京)
蜷川実花らしい、色彩溢れる作品群。しかし、パルコギャラリーで2001年に観た『まろやかな毒景色』みたいな演出はなく、少し寂しい気がした。『まろやかな…』では、靴を脱ぎ、ふかふかした床の上でくつろぎながら、毒々しく色鮮やかな写真を眺めた。あれから九年、蜷川実花も僕も九歳年をとり、きっと世界の見え方も変わったのだろう。この寂しさは展覧会の演出だけによるものではなくて、たぶん、『noir』というタイトルと繋がりがあるのだろう。
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篠山紀信 『山口百恵|篠山紀信』 (Hiromi Yoshii Gallery)
山口百恵って人は信じられないくらい影のあるアイドルだったんだなあ、とつくづく感じた。艶かしい写真もあったけれど、彼女の身体そのものより、どちらかといえばその表情から醸し出される陰翳に心惹かれたのだ。僕の友人だったあいつはこんな女に夢中になっていたのか、しかも小学生の頃に。
しかしTVも変わり、彼女のような存在を受け入れる余地はなくなってしまった。世界はTVから影を追いやり、映画館を潰してゆく。そして写真は?
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久し振りのギャラリー巡りは楽しかったけれど、限られた時間の中でばたばたみて回らなければならず、それが残念だった。