原題: 『Film socialisme』

海原に湧き立つ波、そのうねりに魅了された。色の配置もJLGらしく、とくに青と赤が滲むように鮮やかで、その彩度はめまぐるしく変化する音響と絶妙な均衡を保ちながら画を画として際立たせている。しかし、この荒々しさはどうだろう。曇天の下、吹き荒れる風は人体を吹き飛ばさんと船上を駆け、船内では、ディスコで鳴り響く爆音が踊る人々の身体を潰し、その肉体を粒子レベルにまで解体せんとしている。比較的おだやかにみえた前作とは対照的に、暴力的にも思える荒々しい映像、音響に圧倒されながら、この船はどこに向かうのだろう、史実は別として、その行く末に想いを馳せた。
客船も、片田舎の家族も、西欧の縮図と捉えていいのだろう。
「民主主義と悲劇は、ペリクレスとソポクレスのもと、アテネで結婚した。ただ一人の子供は、内戦である」
「自由は高くつく。しかし、自由はお金や血で買われるものではなく、卑劣さ、売春、裏切りによって買われるものである」
高度化の先に未来はあるのだろうか。JLGはなにも提示せず、「NO COMMENT」を貫く。私も本作の理解はあきらめ、ただ音と映像の迫力に酔いしれて、無言のまま帰路についた。