ピエールは父親とともにカナリア諸島を訪れ、母親ヘレンと再会する。彼女はもう若くはないけれど、それでも僕の美しいママンである。やがて父親は姿を消し、ママンは僕だけのものになった。しかしピエールが愛するヘレンは、その仮面を脱ぎ捨て、それまで隠していた本当の姿を剥き出しにする。

そして、ヘレンはピエールを官能の世界へと導く。僕は畏れを感じながらも、その禁じられた領域へと踏み出そうとする。それは快楽とともに、強烈な苦痛を伴なう経験でもあった。僕を魅了する快楽の先には、死の領域が広がっているのだ。僕はまだ死にたくはない。でも、この世の先まで突き抜けようとする激しい衝動を、もはや抑えることができない。
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予想とは少し違って、生々しい、というか、とてもざらざらとした肌触りを感じる作品だった。観る前には、肉が溶け、体液と混ざり合いながらとろとろのスープになっていくような、そんな甘美な映像が映し出されることを思い浮かべたりもしていたのだけど、実際は違った。劇場へと足を運んだ人たちは、それぞれにある程度の覚悟をしていたのだとは思うけれど、それでも途中で退席してしまう人がいた。帰りのエレベーターの中で、あれはちょっとつらい、とこぼす男性もいた。ということから、この作品はバタイユの官能の世界を映像化することに成功している、といえるのかもしれないし、その逆かもしれない。原作を読んでいないぼくには、それはよく判らなかった。
水曜の夜に鑑賞したのだけど、ぼくにとってこの作品がいい映画だったのかどうかもまだよく判らない。ただ、キャスティングは素晴らしいと思う。とくに、イザベル・ユペールは自堕落なヘレンそのものにみえたし、ルイ・ガレルがみせる物憂げな表情も演技を超えているように感じられた。彼の場合は、この破滅的な物語と、彼自身の生い立ちに重なるところがあったのかもしれない。海岸の手前に広がる砂丘の上で、母なるものを求めて立ち尽くす彼の姿には、妙なリアリティーがあった。
銀座でご覧になられました?
どうやら渋谷でも上映するみたいなので、その時にでも鑑賞予定です。
ルイ・ガレルに期待してます。
ぼくは新宿で観ました。たしか上映最終週だったと思います。渋谷でも上映するみたいですね、けっこう需要があるということでしょうか。
この作品についての記憶は早くも曖昧なんですよね。決して印象の薄い作品だというわけではないんですが。[M]さんのレビューでもう1度この作品を振り返ってみたいと思います。楽しみにしてますよ。
昨日、渋谷で観てきました。観客は7人くらいでした……まぁ混雑するような映画ではないですが。
私もこの原作は読んでおらず、だからこそ楽しみにしていたのですが、正直、あまり乗れませんでした。それは別に、あの描写がきつかったわけでは消してなく、例えば書籍で言う“行間に流れる濁り”のようなものを本作で感じることが出来なかったのです。もちろん、それはあくまでイメージでしかないのですが、どうしてもエピソードの羅列という印象を拭えず、暴力的で猥褻な描写の割りに、そこには彼らの情動があまり感じられなかったのです。
ただし、最後のシークエンスでは、“エロス”と“死”の衝動がわりと上手く描かれていたとは思います。ネタバレですから、ここでは詳しく書けませんが。
ロケーションは素晴らしく、キャストもまた良かったと思いますが、バタイユの世界は、やはり、映像では難しいのかなと思いました。その意味で、原作にはものすごく興味が涌きましたが。
長文失礼いたしました。
たしかにエピソードの羅列という印象はあります。シーンの繋ぎが粗いというのもあるのかもしれませんが、それだけではないような気がします。器用にポイントをおさえてはいるのかもしれませんが、なにか作品に入りづらい感じがありますよね。そう言われてみると。
ロケーションもキャストもとても良かったので、もっとよい作品に仕上げることができたかもしれません。でも、映像化はやっぱり難しいのかな。ぼくも原作の方に興味を持ったんですが、入手が難しそうだったので、とりあえず書店で平積みになっている文庫本を読んだ次第です。それでもとても面白かったんですけどね。