
そんな狂った日常を生きているジェライザ=ローズは、ある日、居場所のなくなった父親に連れられ、草原の中にぽつりと建つある一軒家に転がり込むのだった。その廃屋は、父親が祖母と過ごしたという思い出の場所であった。彼らはそこで、2人だけの新しい生活を始めようとする。しかしその矢先に、ジェライザ=ローズの父親は、彼女を独り残し、果てしなく深い夢の世界に迷い込んでしまうのだった。
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ジェライザ=ローズが直面している現実はとても醜悪なものだ。彼女はジャンキーの両親に翻弄されながら育ち、そしてついには独りぼっちにされてしまう。さらに、彼女の目の前に現れる人間たちは皆どこか狂っていて、しばしば彼女を危険な目にあわせるのだ。その救いのない現実を生き抜くために、ジェライザ=ローズは、親譲りの、悪魔的な妄想力を発揮して、自分を取り巻く全てのものをファンタジーの世界の中に塗り込もうとする。その悪戦苦闘の様子が、とてもテリー・ギリアムらしい、刺々しい皮肉に満ちた、下品で悪趣味な娯楽劇として仕立て上げられている。
この作品の中で、テリー・ギリアム監督は多少の自己批判をしつつ、死者が蘇ることを信じ、その復活のためにハルマゲドンを仕掛けようとする狂信的な人々のことを痛烈に皮肉っている。おそらく、本作は、荒唐無稽な妄想の世界を描いたカルトな娯楽作品であると同時に、アメリカ現政権を支え続けるカルトな人々を批判する社会派作品であるとも考えられると思う。ラストの、大人たちの言葉を尻目に、どこか醒めた瞳で、ただ遠くを見つめ続けるジェライザ=ローズの眼差しが強く印象に残った。
私はこういうブラックテイストのメルヘンワールドが大好きなので、ひたすらエンタメとして楽しんでしまいました。
でもきっと、それだけではなく、ギリアムならではの実社会に対する皮肉がこめられていたのでしょうね。
正義をふりかざすアメリカという国に?
これよりも、M:i:IIIの方が不謹慎な映画だと思ったりしました。
ブラックテイストのメルヘンワールドにはそれほど縁がないんですが、この作品はエンタメ作品としてよくできているなあ、とぼくも楽しむことができました。観ている間は、けっこうにやにやしていたかもしれません。
ギリアムは様々な皮肉をこの作品の中に埋め込んでいるんでしょうけど、ぼくはキリスト教右派に対する批判的な態度を感じとってしまいました。またそれが”黒い”ユーモアに包まれていて、それがとても面白かったです。