2006年09月10日

「二十一世紀の資本主義論」 貨幣の悪と資本主義の未来

岩井克人著『二十一世紀の資本主義論』(ちくま学芸文庫)

投機とはやっかいなものだ。投機家たちが動かす莫大な資金は瞬時にして市場の中を駆けめぐり、企業を、そして人間を振り回して、ときにはその命をも奪ってしまう。初めての転職以来、ぼくは非上場企業でばかり働いているけれど、それは、PCの前でカチカチやりながら多くの富を得ようとする顔の見えない人たちのためにあくせく働きたくはない、という理由もある。会社を辞めてぶらぶらしている時に、ぼくがデイトレードで食っていると思っている人が意外に多くて驚いたが、それはとんでもない話だ。働かずして富を得る人間が存在するためには、奴隷のように扱われる労働者が必要となる。ぼくはそのどちらにもなりたくはない。けれど、その一方で、現実はそう甘くはないということも薄々わかってはいるつもりだ。

21century's_capitalism00.jpg「投機」とはいったい何なのか?
「投機」とは、これから見ていくように、市場経済にとってもっとも本質的な活動である。市場経済のなかでは、モノを生産することも、モノを消費することも、必然的に投機の要素をはらんでいる。いや、それだけではない。じつは、市場経済のなかでは、貨幣を媒介としてモノを売り買いすること自体が、無限の将来に向けての投機そのものなのである。投機家とは、生産者や消費者に対立する異質な人種であるのではない。市場経済のなかで生産し交換し消費するすべての人間が、すでに全面的に投機家なのである。真の「悪人」はまさにわれわれ自身なのである。(p.20-p.21)


なにも投機家だけが悪いというわけではなさそうだ。彼らは必要とされている役割をこなしているに過ぎない。高度な進化を遂げた資本主義が、彼らを必要としているのだ。そして、その資本主義をつき動かしているのは、まぎれもなく我々自身の果てしのない欲望である。さらに、その我々の欲望と資本主義を結び付けているのは、貨幣という媒介するモノの存在である。岩井氏は、市場経済の中で、貨幣を媒介として売買を行うこと自体がすでに投機的であるのだと指摘している。では、市場経済の中をめまぐるしく流動しながら人々を投機へと導く貨幣とは、いったいなにものなのだろうか。

貨幣には、モノとしての価値を大きく上回る価値が備わっている。この過剰なモノである貨幣という存在自体が、「投機」という行為と深く結びついているのだ。岩井氏は、人々がその永遠の価値を予想しているからこそ、貨幣が貨幣として成立しえているのだという。無限に増殖する富を求める人々の総意が、貨幣という過剰をはらんだモノを生み出したということなのかもしれない。ただし、逆にいうと、その「予想の無限の連鎖」が潰えたときに、貨幣は貨幣としての価値を失ってしまうのだ。過剰なモノである貨幣の足元は、意外に、というか、過剰なモノであるがゆえに脆弱なのである。

これにたいして、貨幣の場合は、モノとして消費されることも、モノとして生産に投入されることもなく、ひとからひとへと永遠に受け渡されていくだけである。いや、ひとびとの欲望とは永遠に触れあうことなく、その欲望をたんに媒介していくだけだからこそ、モノとしてはたんなる金属片や紙切れや電磁波でしかない貨幣が、モノとしての価値をはるかに上回る価値を持つことができるのである。貨幣の貨幣としての価値を支えているのは、まさに「予想の無限の連鎖」そのものなのである。(p.51)

*****

資本主義―それは、資本の無限の増殖を目的とし、利潤を永続的に追求していく経済活動の総称である。(p.80)

貨幣の価値は、モノから離れ、ひとり歩きをしながら資本として増殖を続けるけている。それが、資本主義というものなのだろう。資本主義の発展と共に、その力は、人々の生活をリアルなモノから引き離し、ヴァーチャル化し、この世界を地上から浮き立たせようとしている。我々は、この浮世の中を生き延びていくしかないのかもしれない。

*****

長くなりそうなので、このエントリーは一旦、ここで区切ることにする。本書については、資本主義が必要とする格差など、もう少し書き留めておきたいことがあるので、改めてエントリーを追加するつもりでいる。あと、無限の富の増殖に向かう人間の心については、もう1冊だけ本を読んでいるので、それについても何かしら書き留めておこうと思っている。

(関連記事:「二十一世紀の資本主義論」 格差を求める資本主義の未来 <追記>/2006/09/12)


posted by Ken-U at 16:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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