2006年10月07日

「弓」 あるひとりの女への欲望

キム・ギドク監督 『弓』。原題『hwal』 (ル・シネマ)

老人は半島から離れ、海に浮かぶ漁船の上であるひとりの娘と暮らしている。その娘は、10年前にあの半島から連れ去られ、それ以来、外の世界を知らないまま洋上で育った。娘はもうすぐ17歳になる。その誕生日に、彼女は老人と結婚することになっているのだが、ある日、漁船にひとりの青年が現れ、青年と娘は互いに惹かれ合うようになる。

hwal03.jpgこの『弓』は、これまでのキム・ギドク作品とは少し異なる文脈で撮られているのかもしれない。というのも、本作で最も印象深く感じられるのは、やはり娘役を演じているハン・ヨルムの妖しい魅力ではないかと思うのだ。これまでのキム・ギドク作品では、どちらかというと極私的な、主人公と社会(韓国・朝鮮半島、あるいは家庭)との関係、距離を描くものが多かったように思うけれど、この作品で執拗に描かれているのはハン・ヨルムの艶めかしい身体そのものであり、そしてその身体に向けられる欲望であるように思える。キム・ギドク監督は、その欲望を昇華し、寓話化されたある種の映像詩を紡ごうとしている。それがこの作品の主たるテーマなのではないだろうか。

この作品のタイトルにもなっている「弓」の扱われ方に、その文脈の違いが表われているようにも思える。弓は、これまでの作品に登場した「飛礫」や「3番アイアン」などと同じように、外の世界に対して怒りを表明するための武器として描かれているのだが、それだけではなく、美しい旋律を奏でるための楽器としての役割も担っている。さらに、その弓で矢を射る場合も、矢は外界の住人たちを狙うばかりではなく、ハン・ヨルムの身体にも向けられている。この場合、弓が表す感情はもちろん怒りではなく、ハン・ヨルムの肉体に対する欲情である。「弓占い」というかたちで繰り返し描かれるこの情動は、ラスト・シーンで頂点に達し、ハン・ヨルム演じる娘の魂を悦楽の絶頂に至らしめる。

*****

これまでとは違う趣向を持つとはいえ、娑婆から離れた水の世界に浮かぶ家という設定はこれまで何度も描かれたものだし、そこで渦巻く欲望や葛藤、そして暴力など、人間の業(ごう)とでもいえるような心の動きもキム・ギドク作品では馴染みのものだ。という意味では、本作で描かれているのはまぎれもなくキム・ギドクの世界だといえる。ただ、ひとりの女優の身体をここまで執拗にカメラで追うとは予想していなかったので、正直、観ていて戸惑うところも多かった。

そしてあのラストは、ネットで目にしたキム・ギドク引退の噂を思い出させたけれど、次作も既に撮り終えているようだし、とりあえず彼が引退してしまうことはなさそうだ。今後、キム・ギドクがどこへ向かうのか、興味は尽きない。


posted by Ken-U at 18:19| Comment(0) | TrackBack(1) | 映画(キム・ギドク) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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『弓』みましたぁ!
Excerpt: 『弓』 チョンソンファン/ハンヨルム/ソジソク共演 활(The Bow) 2005年キムギドク監督作品 junsanga的評価 ★★★★☆(4つです。) 【1】キムギドク監督作品は..
Weblog: 韓ドラのたまり場
Tracked: 2007-02-18 08:58
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