2006年10月21日

「ディア・ピョンヤン」 離別した家族を繋ぐもの

ヤン・ヨンヒ 監督 『Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン』 (渋谷シネラセット)

在日コリアン2世であるヤン・ヨンヒ監督は、ビデオカメラを片手に両親と会話し、共に万景峰(マンギョンボン)号に乗って、3人の兄とその家族が暮らすピョンヤンへと向かう。

dear_pyongyang000.jpgヤン・ヨンヒさんの父親は朝鮮総聯の幹部である。第二次大戦後、彼は「・」が掲げる革命の理念に賛同し、故郷である済州島のある大韓民国ではなく、「・」を自身の祖国に選んだ。当時、彼と同じような選択をした在日コリアンは多かったという。その背景には、在日コリアンに対する「・」の様々な支援活動がある。その後、彼は金日成に忠誠を誓い、日本国内における朝鮮総聯の活動に尽力して、さらには3人の息子を「・」へと「帰国」させた。70年代には約9万人の在日コリアンがこの「帰国」政策に応じたという。革命による祖国統一の夢を実現させるために、息子たちは「・」に自らの人生を捧げたのだ。

この作品の最大の魅力は、ヤン・ヨンヒさんの父親が持つキャラクターだと思う。酒に酔い、ハングル混じりの関西弁で怒鳴るようにまくし立てながら、豪快に笑う。そのうえヨンヒさんに向かって、自分の言うことに従おうが従うまいが、立派に成長できたことそれ自体が素晴らしい、と正面から言える。そして妻への愛情をありのままにあらわし、家族が家族であり続けるよう努めている。父親としてとても魅力を感じる人物である。

彼の妻は、息子たちが「・」へと渡って以来、痩せ尊り、やつれていく息子たちとその家族の許に日用品を送り続けている。彼女は子や孫に宛てた荷物をいくつものダンボール箱に詰め込み、それを万景峰号に託すのだ。その手慣れた荷造りの様子は、30年以上に渡る彼女の荷送りの歴史を感じさせる。そして船は、両親の想いと革命の抱える矛盾をのせて、水平線の向こう側へと消え去っていく。

*****

この作品は、国家の野蛮に翻弄され、引き裂かれてしまう家族の姿をその内側から捉えている。その情景を眺めていて改めて気づくのは、家族を想う気持ちと国籍は無関係であるという考えてみればあたりまえの事実であり、そのあたりまえがしばしば忘れ去られてしまうという残酷な現実である。

人は、両親や出生地を選びとることはできない。どのような境遇に生まれるか、それは運命に委ねるしかないのだ。しかしどのような境遇に生まれようと、人が人であることにかわりはない。その国籍を理由に殺されるいわれはないのだ。

(関連記事:経済制裁とは兵器を使用しない無差別殺人である/2006/10/22)
posted by Ken-U at 19:30| Comment(4) | TrackBack(3) | 映画(日本) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Ken-Uさん、こんばんは。私もこの映画を今日見てきました。
上映後には監督の舞台挨拶もあり、興味深い話も聞けました。
心配された父親の病状は脳梗塞だそうで、映画を撮影した頃から
病状は良くも悪くもなっていないそうです。

この作品はさまざまな問題を投げかけていますが、
私もKen-Uさんと同じく、家族の映画だと思いました。
作品の背景には複雑な事情があれど、家族を思う気持ちは
まっすぐなところが良かったですね。
父親も、内心では息子を北に送ったことを後悔しているのかもしれません。
いつか南北朝鮮が統一されたらという願いにも、切実なものを感じました。
監督自身も言っていたのですが、テレビニュースには決して映されないような、
北朝鮮の姿がここにはありましたね。
Posted by 丞相 at 2006年10月22日 20:39
丞相さん、コメントありがとうございます。

丞相さんがおっしゃるように、家族を思う気持ちがまっすぐに映像化されていて、とても好感が持てる作品でしたね。

また、父親が背負う矛盾も見え隠れしていて、祖国を奪われた人々が抱える苦悩を垣間見ることができたような気がします。在日コリアンであり、かつ北朝鮮籍であるという現実は、ぼくの想像をはるかに越える重みがあるのだと思います。
Posted by Ken-U at 2006年10月22日 22:31
こんばんは
>家族を想う気持ちと国籍は無関係である
そうですね。どんな国でも家族間の心情はさほど変わらないのだろうと思います。ただ、いったん国家や民族といったフィルターをかけてしまうと、途端に見えなくなることもあるのだなと、この映画を見ながら気付かされました。見る側の意識が問われる作品だと思います。
ピョンヤンで撮られた映像は限られたものでしたが、子供たちの笑顔を見ていると心が癒されるような気分になりました。
Posted by 狗山椀太郎(旧・朱雀門) at 2006年10月30日 01:51
狗山椀太郎さん、コメントありがとうございます。

この作品を観て、当たり前であることを当たり前のこととして持続させることの難しさを痛感してしまいました。
あと、ピョンヤンの風景もよかったですが、万景峰号が港に着くときの光景も強く印象に残っています。船を出迎える人々が手を振る様子が今でも思い起こされます。
Posted by Ken-U at 2006年10月30日 21:20
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