2006年11月18日

自由の名のもとに引かれる境界線をめぐって

BS世界のドキュメンタリー
『それでもアメリカに行きたい 〜増加する危険な国境越え〜』

1990年代以降、アメリカの移民政策が排他的な傾向を強めていくにつれて、命がけで砂漠を横断し、不法に国境を越えようとするメキシコ人が急増するようになった。

arizona03.jpg1992年、北米自由貿易協定(NAFTA)に調印したアメリカ政府は、不法移民排除のため国境地帯の警備強化に乗り出す。この対応は、NAFTAの発効とともにメキシコからの不法移民が増加することを懸念してのものだったが、実際、1994年以降、メキシコからの不法移民は増加傾向をたどる。この不法移民の増加は、農作物に対する関税が撤廃されたことによって、メキシコ国内にアメリカやカナダから安価な農作物が大量に輸入されるようになり、国内の農業が壊滅状態に陥ったためだといわれている。こうして生活の基盤を失ったメキシコの農民たちは、職をアメリカに求めるようになるのだが、カリフォルニアとテキサス州ではすでに国境封鎖が強化されており、彼らの向かう先はアリゾナ州に集中する。その結果、不法移民が急増したアリゾナ州では、武装した退役軍人などによる自警団(ミニットマン)が組織されるなど、不法移民排除のための動きが活発になった。そして2006年10月26日、ブッシュ米大統領はメキシコ国境地帯に強化フェンスを設置する法案に署名した。その全長は約1,100キロメートル、国境線全体の約3分の1にあたる。

アメリカ国内の不法移民は約1,200万人、そのうちメキシコからの越境者は約600万人にのぼり、さらに越境を目指すメキシコ人は増加する傾向にあるという。その数は年間50万人とも100万人ともいわれている。現在、メキシコからの越境者は砂漠地帯を横断することを余儀なくされており、1995年以降、その砂漠地帯で見つかった遺体は約4,000体以上にのぼるという。推定では、年間数千人のメキシコ人がこの国境地帯で死亡しているとみられている。

*****

移民を排除する側と受け入れを主張する側、その双方にカメラは向けられる。排除する側は移民社会が犯罪やテロの温床になると主張し、一方の受け入れ側は、移民はアメリカ社会の底辺を支える低賃金労働者として有用であると主張する。また、排除側はアメリカの多文化主義は誤りだといい、受け入れ側は多文化主義こそがアメリカだと主張する。双方の言い分は交わることなくすれ違うばかりである。ただし、当然のことながら、どちらの主張もアメリカの利益に基づくものであり、メキシコ人の利益については考慮されていない。名もなきメキシコ人の越境者たちに与えられる運命は、死ぬか、奴隷のように働かされるかのどちらかである。

低賃金労働者として農場で働く移民たちの姿はとても印象深いものだった。彼らの労働によって生み出される安価な農作物は、アメリカ国内で消費されるだけではなく、おそらくメキシコ市場に向けても輸出されていくのだろう。その結果、彼らの帰る場所は今以上に狭まってしまうかもしれない。メキシコに留まるのも地獄、砂漠で死ぬのも地獄、生き延びてアメリカで僅かな報酬を受け取ったとしても、その結果、母国の産業破壊がさらに進み、彼ら自身の帰る場所が消えてなくなってしまうかもしれない。名もなき越境者たちは、その悲惨な悪循環から抜け出す道を見出すことができるだろうか。


posted by Ken-U at 23:25| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Ken-Uさま、こちらにもお邪魔します。
テキサス出身のトミー・リー・ジョーンズが撮った『メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬』という映画があります。
不法移民であるメキシコ人と彼を巡る人々を描いています。
とても味わいのある映画ですので、是非ご覧になってみて下さい。
(既にご存知でしたらごめんなさい)
Posted by 真紅 at 2006年12月29日 21:33
『メルキアデス・エストラーダの三度の埋葬』は見逃してしまったんですよ。興味のある作品なので、是非みてみたいと思っています。たしか、もうDVD化されてるんですよね。
Posted by Ken-U at 2006年12月29日 23:33
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