2006年12月24日

「麦の穂をゆらす風」 蜃気楼のように揺れる理想の地を目指して

ケン・ローチ監督
『麦の穂をゆらす風』/原題『THE WIND THAT SHAKES THE BARLEY』
(シネ・アミューズ イースト/ウエスト)

the_wind_that_shakes_the_barley01.jpgデミアンは、医者を志していたにもかかわらず、その夢を捨て、アイルランドの独立運動に身を投じる。彼は、兄弟のように育ち、ともに暮らしてきた故郷の仲間を見捨てることができなかった。イギリスの軍人たちは、町の男たちを罵倒しては殴りつけ、さらにはその命を奪い取ってしまう。目に余る侵略者たちの蛮行に耐え切れなくなったデミアンは、同士とともに銃をとり、母国の解放を目指して戦うことを決意したのだ。

正義の名のもとにIRAは組織され、その目標達成のために文字通りの死闘を繰り広げる。しかし、彼らはその理想の地に辿り着くことができない。もう少しで手が届きそうにはなるのだが、その目的地はデミアンたちの手元をかすめ、ふたたび彼らのもとから遠ざかってしまうのだ。彼方に浮かぶ理想の地は蜃気楼のように揺らいでいる。しかし、それでも彼らは組織のために前進を続けなければならない。そして目的地との距離を埋めるために、さらに多くの血を流しながら奪った命を贄として国家に捧げるのだ。

*****

先日観た、クリント・イーストウッド監督の『父親たちの星条旗』(過去記事)と同じようなテーマを持つ作品だと思う。『父親たち…』は、戦場のむごさを映像として露わにすることで戦争の悲惨さを表現しようとしていたけれど、この『麦の穂をゆらす風』は、デミアンを中心にした人間関係が戦いによって破壊されていく様子を丹念に追うことで戦争の悲惨さを描き出そうとしている。大切な家族や友を守るために始めた戦いであるにもかかわらず、守るべき大切な人々に銃口を向け、その命を奪わなければならなくなったデミアンと彼の同士たち。何故、彼らはそのような悲劇的な矛盾を抱えなければならなくなったのだろう。デミアンらがつくりあげた組織は、いつの間にか彼らが憎んでいた国家と同じような姿に成り果ててしまった。講和条約締結後、デミアンの兄テディがみせる軍服姿に、その矛盾が投射されているような気がした。国家に対抗するために国家を模した組織をつくりあげてしまった彼らは、自らの過ちに気づくことができただろうか。彼らは蜃気楼のように浮かぶ理想の地を追ううちに、何か大切なもの見失ってしまったのかもしれない。


posted by Ken-U at 12:57| Comment(2) | TrackBack(1) | 映画(その他の国) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Ken-Uさま、こんにちは。TB失礼しました(承認制なのですね)。
私はこの映画を観て「目を背けてはいけないんだ」と思い知らされ、イーストウッドの硫黄島二部作も観ました。
Ken-Uさまとは観た順番が逆ですが、これらの作品に同じ主題があるとKen-Uさまと同じように感じました。
時代が求めた作品なのかもしれませんね。
ではでは、またお邪魔させて下さいね。
Posted by 真紅 at 2006年12月29日 21:26
真紅さん、コメントありがとうございます。

ぼくはまだイーストウッドの『硫黄島からの手紙』を観てないんですが、近いうちに観ようと思っています。

あと、TBは承認制じゃないんですよ。単にサーバー側の調子が悪いだけだと思います。
Posted by Ken-U at 2006年12月29日 23:30
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慟哭〜『麦の穂をゆらす風』
Excerpt:  1920年、アイルランド。700年に及ぶイギリスの弾圧に耐えかね、独立運動に 身を投じる若者達。「異国の鎖につながれる屈辱」からの解放と自由を求めた彼らの 運命を、二人の兄弟を中心に描く、2..
Weblog: 真紅のthinkingdays
Tracked: 2006-12-29 01:29
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