hiroshi watanabe / 『genesis』 (klikrecords)hiroshi watanabe名義によるニューアルバム。彼のほかの名義、例えばkaitoの音と較べると、憂いというか影というか、彼の息子の名をとったkaitoとは別種の奥行きが感じられるサウンドである。ただし、影といっても必ずしも暗澹たるものではなく、その暗闇の先に未知の悦びが待ち受けているような、ある種の希望にも似たとても不思議な感情を湧き立たせる。それはちょうど、このアルバムのジャケットに映しこまれた写真ととてもよく似た感情である。光と闇が入り混じりながら、茜色の、この世のものとは思えない美しい光が生み出されて、地上を照らす。夜明け前にTCATからリムジンバスに乗り、首都高を走りながら朝焼けを眺めたときに、このアルバムのことを思い出した。ジャケットに描かれたこの情景は、朝焼けなのか、それとも夕焼けなのだろうか。ぼんやりと考えるうちに、睡魔に襲われ、そのどちらでもいいと思った。たとえ夕焼けだとしても、それが終わりを意味するわけではない。人は、夕焼けの光を浴びながら、その先に訪れるであろう夜の暗闇のことを考えたりはしないだろう。ただただその光の美しさに酔いしれ、恍惚とするのである。そしてその恍惚から、未来に向けた新たな情動が生み出されるのだ。その不思議な力を持つ情動は、このアルバムのタイトルにある"genesis"という言葉と結びつくのだろう。


