
彼は素晴らしい作家だということが再認識できた。この作品は、ある海洋探険家の物語であり、居場所のない人々の物語であり、映画監督の苦悩を描いた物語であり、断絶した父と息子が抱える愛憎の物語だった。そして笑いながら観ることのできる娯楽作品でもあった。
この作品に対するぼくの想いはうまくまとまらないけど、自分なりの雑感を極力ネタをばらさずに書いてみようと思う。とにかく観る価値のある作品だということは間違いない。
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海洋探検家でありドキュメンタリー作家でもあるスティーヴ・ズィスー。彼のドキュメンタリー製作をめぐる物語には、映画制作者であるウェス・アンダーソン自身が抱えている苦悩が投影されている。また、ズィスーは居場所のない孤独な男として描かれていて、このキャラクターにはウェス・アンダーソン自身と、(たぶん)彼の父親の姿が投影されているのではないかと思われる。彼が、彼の船ベラフォンテで行われているパーティを独り抜け出した時に、デヴィッド・ボウイの「Life On Mars?」が流れる。これで序盤から痺れてしまう。この作品にはデヴィッド・ボウイの「あの頃」の曲が効果的につかわれている。それもぼくのツボを刺激する。この「Life On Mars?」の歌詞の一部を引用しておこう。
Sailors fighting in the dance hall
Oh man! Look at those cavemen go
It's the freakiest show
Take a look at the Lawman
Beating up the wrong guy
Oh man! Wonder if he'll ever know
He's in the best selling show
Is there life on Mars?
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そしてズィスーのもとに、彼の息子であるらしい男ネッドが現れる。ネッドは、ズィスーと彼の元恋人との間に生まれた子供らしい。ズィスーはネッドをチーム・ズィスーに迎え入れ、「ジャガー・シャーク」探しの航海に出る。その幻の鮫は、彼の親友であり片腕でもあったエステバンを喰ったとされている。
この物語には、「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」と同様に、子供を捨てた父親と息子の愛憎劇という側面がある。そして、その親子の関係は「ザ・ロイヤル…」以上に複雑なものになっているように感じた。
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「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」と共通するテーマを持ちながらも、この作品から受ける印象は、「ザ・ロイヤル…」から受けるものとは異なっている。この「ライフ・アクアティック」が、海を舞台にした冒険の物語だというところがとても重要なんだろう。居場所のない男が海深く潜ることの意味。そしてスティーヴ・ズィスーは「チーム・ズィスー」や、自身に降りかかる諸々の面倒を全て引き受けようとする。
この作品においてウェス・アンダーソンは、自分の内的な世界から踏み出すこと、捨てられた息子であることを乗り越えること、そして人生(もしくは映画制作)という冒険にあらためて臨むということを宣言しているのかもしれない。
(関連記事:「ライフ・アクアティック」 This is an adventure/2005/06/25)
独特のゆるい感覚と淡々としたビル・マーレーの演技。
奇妙な印象が残りました。