2007年05月03日

「魚と寝る女」 ギドク曼荼羅への入口

キム・ギドク監督 『魚と寝る女』 / 原題 『SEOM (THE ISLE)』 (ユーロスペース)

特集『スーパー・ギドク・マンダラ』 レイト・ショウ上映。

seom05.jpgこの『魚と寝る女』は、ぼくがキム・ギドクという映画監督の存在を知るきっかけになった作品である。今から4年ほど前、CSの仮登録期間中、あれこれとザッピングしていて偶然出くわし、観るともなく観るうちにその映像世界に引き込まれ、そのままエンディングまで釘づけになったことを今でも憶えている。それまでのぼくは、キム・ギドク作品に限らず、韓国映画全般を意識することがなかったのだけれど、この偶然の出会いをきっかけに、キム・ギドクの新作は逃さず劇場で観るようになり、他の韓国映画に対する関心も高まって、さらには韓国という国そのものに対する見方も変わり、以前より身近に感じられるようになった。

そして約4年ぶりにこの作品を鑑賞してみて、描かれる世界がこれほどまでに荒唐無稽なものだったかと少し驚かされはしたけれど、しかしながらそこにあるのはまぎれもないキム・ギドクの世界そのものであるという印象を受けた。粗削りで、ここ最近の作品ほどは洗練されていないのだが、山に囲まれた湖面に浮かぶ小屋、娑婆で犯した罪から逃れようとする男、水の世界に寄り添い生きる女、男女を襲う激烈な痛み、その痛みによって結ばれるふたり...といったキム・ギドク的というか、本作の後に続く作品、とくに『春夏秋冬そして春』(過去記事)や『弓』(過去記事)へと繋がるモチーフ、そのほかにも、行水(あるいは入浴)する女や揺れるぶらんこのショット、そしてなにより主演女優に向けられたエロティックな視線など、それらの作品と強く結びつくイメージが数多く散りばめられているような気がした。

*****

ところで、今回の特集上映のタイトルに「マンダラ」という言葉がつけられたのは何故だろう。それを不思議に思いながらこの作品を眺めていたのだけれど、ここまでの文章をタイプしていたらその疑問が少し解けたような気がした。それはつまり、彼の作品群をあらためて眺め直す機会を提供することで、各作品の部分同士が繋がりあったひとつの大きな映像イメージ‐ギドク曼荼羅と呼べるほどの巨大で複雑な成り立ちをした映像宇宙‐を観客の脳内に浮かび上がらせる、という企画側の意図があったのではないだろうか。そして、そのギドク曼荼羅という映像イメージは、たぶん、本作のラストであからさまに表現されていた母性回帰願望と深く結びついているような気がする。

引き裂かれるはずであったもの同士が、荒唐無稽とも思える論理的、映像的飛躍によって再び結びつけられる...『スーパー・ギドク・マンダラ』と名づけられたこの特集上映は、キム・ギドク作品が持つ魅力を再発見しながら、さらにその魅力を‐それこそシナジー効果と呼べるような連鎖の働きによって‐相乗的に増幅させて楽しむためのよい機会になったのかもしれない。それなのにぼくは、3月にこの『魚と寝る女』を鑑賞しただけで、さらに最新作である『絶対の愛』を見逃してしまったのだった...


posted by Ken-U at 00:35| Comment(2) | TrackBack(1) | 映画(キム・ギドク) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Ken-Uさま、こんにちは。
この作品が「初ギドク」だったのですね。
彼の作品全体で、ある一つの大きな映像をイメージする、という捉え方、共感します。
私は全作品を観ていないので(『絶対の愛』も未見です)まだその全体像は浮かびませんが、母性回帰願望と繋がっているのか興味深いところですね。
TBさせていただきました。ではでは。
Posted by 真紅 at 2007年09月10日 12:38
真紅さん、コメントありがとうございます。

ギドク作品には繰り返し同じような映像イメージがつかわれますよね。だからいろんな作品を観ていくうちに、なんとなくギドク・ワールドに対する理解が進んでいくような気がしてくる。それに作品同士が互いに結びついていくようで、なんとなく自分の中のギドク・ワールドが広がってもいきます。
で、ギドク作品というと、やはり母性回帰、というか「母なるもの」への郷愁を強く感じてしまいます。それは女であったり、朝鮮半島であったりするんですが、その回帰願望がとても分かり易い形で映像化されているのがこの作品なんじゃないかと感じた次第です。

こちらからもTBさせてもらいます。
Posted by Ken-U at 2007年09月11日 00:23
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Weblog: 真紅のthinkingdays
Tracked: 2007-09-10 12:29
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