
2015年2月12日(木)
『ジミー、野を駆ける伝説』
監督:ケン・ローチ
原題:Jimmy's Hall
場所:新宿ピカデリー
ヨーロッパの教会による民衆の抑圧については過去にいくつかの本を読んだ記憶があるけれど(とくに思い出されるのは『オルガスムの歴史』)、30年代のアイルランド社会がこれほどまで宗教に支配されていたとは。舞台はとある小さな村なのだけれど、聖書を盾にした神父の言葉による抑圧だけではなく、その村にはIRAなどとも繋がる暴力も横行している。労働に勤しみつつましく暮らす村の人々、とくに若者たちには娯楽がなく、こうした状況に不満を鬱屈させているのだが、そこへジミー・グラルトンが帰郷し、彼らの要請を受けて伝説のホールを再開させる。人々は、そこで歌い、踊り、または美術や格闘技など修練に興じる。
これをきっかけに激化する村人たちと教会の対立が描かれるのだけれど、本作の見どころはやはり音楽とダンスにあるのだと思う。とくにダンスは教会に対抗するためのある種の武器というか、人々の自由を象徴する行為として描かれているので印象深い。村民は暴力によらず、伝統的な様式に限らない、たとえばジミーがアメリカから持ち込んだジャズなどによるダンスで抑圧に抗おうとする。ときに、このダンスがある種の祈りのようにも感じられる。
善と悪、人間の自由と秩序について、また暴力によることのない異議申し立ての方法などについて。無数の紛争とともに今後もこの世界は回り続けるのだろうけれど、よりよい方向に向かうよう我々は祈るしかない。