2005年07月04日

「アンソニーのハッピー・モーテル」 幻とそこに集う仲間たち

bottle_rocket.jpg半額レンタルで、ウェス・アンダーソン監督の「アンソニーのハッピー・モーテル」を鑑賞。国内では劇場未公開で、原題は「BOTTLE ROCKET」。邦題の意味がわからん。リリースはDVDのみらしい。

アンソニーは心を病んでいて、療養施設に入っていた。退院の日に迎えに来てくれたのは、親友のディグナン。そしてディグナンはアンソニーにノートを渡す。そこには彼がつくった、犯罪の75カ年計画(!)が書き記されている。そして友人のボブをメンバーに加えた3人は、計画に沿って最初の犯行に向かう...

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ウェス・アンダーソン監督の長編第1作となる作品。すでに彼のスタイルは確立されていた。ユーモアや音楽のセンス。傷ついた者たちが集まり、擬似家族的なグループをつくるという物語。

オーウェン・ウィルソンが演じるディグナンは貧しい家庭で暮らしている。彼は嘘ばかりつくので、周囲から孤立してしまっている。ボブは裕福な家庭に育っているが、兄の振るう暴力に苦しんでいる。アンソニーは施設から出てきたばかり。この3人組は、ディグナンが生み出す嘘の世界を支えにしながら生きているようだ。そういった物語の構造は、「ライフ・アクアティック」とよく似ている。そしてまた、幻を生み出しながら生き延びようとしているウェス・アンダーソンの姿とも重なって見えてしまう。

妄想の世界を生きているディグナン。彼は妄想と現実の境界が把握できていない。仲間を堅気の世界から救い出すために、自分の仲間を強引に妄想の世界に引きずり込む。アンソニーやボブも、彼の計画が現実離れしていることが判りながら、それでも付き合ってしまう。現に、計画がうまくいったのは書店を襲った最初の強盗だけで、その後は計画が狂いっぱなし。そうした狂った状況の中で、仲間たちが離合集散しながら様々な物語が紡がれていく。

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オーウェン・ウィルソンの瞳には、たびたび深い孤独感が映し出される。「ライフ…」の時もそうだった。素晴らしい演技だと思うけど、そこには演技を超えたものがあるんじゃないだろうか。

彼が演じるディグナンが、刑務所の中で仲間たちのためにバックルを作っていて、それを面会に来たアンソニーとボブに渡す。そのバックルを受け取りながら、アンソニーは「ものづくり療法」という言葉をつかう。彼も療養所の中で経験したのかもしれない。ウェス・アンダーソンにとって、映画を制作することが「ものづくり療法」なんだろう。だからどの作品も極私的なものになってしまう。

出演している俳優にも見覚えのある人達がいる。ウェス・アンダーソンが紡ぎ出す幻の世界に集まる、馴染みの役者たち。撮影現場の様子は、この作品ととても似通ったものなんだろう。そうやって創り出された幻の世界は、スクリーン(あるいはモニター)の上に投影されて、観る者の心に届く。そしてすっかり魅せられてしまったぼくは、自分も彼らの一員になったような錯覚をおぼえてしまった。


この記事へのコメント
こんばんは。コメント&TBありがとうございました。
なるほど、ウェス・アンダーソン作品を見る人もまた、彼らのファミリーに仲間入りしてしまうのですね。
全作見てしまった私は、いつの間にかファミリーになってしまいました。
そう考えれば『ライフ・アクアティック』も、彼らの映画製作現場の雰囲気そのままなのかもしれませんね。
傷つきながらも、傷のなめ合いは決してしない関係も、いさぎよいものだと思います。
Posted by 丞相 at 2005年07月04日 23:51
丞相さん、こちらにもコメントありがとうございます。

彼らがつくった擬似家族は、決してうまくはいきませんでした。しかしそのドタバタを通して、ボブやアンソニーはそれぞれ新しい人間関係を築いていきます。

コンセプトは「ブギーナイツ」に近いのかもしれませんね。
Posted by Ken-U at 2005年07月05日 11:15
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『アンソニーのハッピー・モーテル』〜Anderson the Best!〜
Excerpt: 『アンソニーのハッピー・モーテル』 (原題『Bottle Rocket』)   DVD   監督:ウェス・アンダーソン出演:ルーク・ウィルソン オーウェン・ウィルソン ネ..
Weblog: Swing des Spoutniks
Tracked: 2005-07-04 23:51
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