2007年10月14日

「絶対の愛」 すり抜ける恋愛と自滅するわたし

キム・ギドク監督 / 『絶対の愛』 (下高井戸シネマ)

英題: 『TIME』

その女は、愛する男を繋ぎとめるために、自分の体にメスを入れる。

time03.jpg自由恋愛とはやっかいなもので、その関係を固定してしまうと、それまでたぎっていた熱が冷め、その熱とともに心の高まりがどこかへ消え去っていきがちである。相手は確かに自分の傍らにいるのだけれど、そこにかつての恋愛感情が留まり続けているのかどうか、定かではない。相手の体はそこにあるとしても、その心はわたしという存在をすり抜けて別のどこかへ向かっているのではないか、という不安に苛まれてしまう。だからわたしは、全身全霊をもって、わたしの恋愛の相手を繋ぎとめなければならない。がしかし、わたしが繋ぎとめようとすればするほど、相手の心はわたしから離れ、どこか遠いところへ消え去っていくような気がしてならないのだ。そうしてわたしは思い悩んだ挙句、このわたしの輪郭をわたし自身の意志によって再構築し、より強固なものにしたうえであなたと出会い直したいと考えた。そして再び愛しあうことによって、揺るぎのない絶対的な絆を手に入れたいと願ったのだ。その結果、あなたは再びわたしのものとなった。しかし時の流れとともに、絶対であるはずの恋愛に映し出されるわたしの輪郭は再び危機的状況に陥る。わたしという存在はなぜにここまで脆いのだろう。わたしが懸命に繋ぎとめようとしたものは、結局のところ、わたしのもとをすり抜け消え去るしかないのだろうか。

この『絶対の愛』は、韓国では日本以上に普及しているといわれる美容整形という題材を扱うことによって、脆弱な個の輪郭というテーマをとても分かりやすいかたちで映像化していると思う。ただ、少し違和感を覚えてしまったのは、キム・ギドク作品にしては珍しくセリフが多用されているという演出方法である。その理由を自分なりに考えてみたところ、それは本作が現代における自由恋愛を描こうとしているからだと思い当たった。近現代の産物である自由恋愛の背景には「わたし」という個人の存在とそのエゴがよこたわっているため、本作の登場人物たちは言葉によって自己を主張し、それぞれが抱える「わたし」の輪郭をかたちづくる必要があったのだろう。しかし、そう理解はできたのだけれど、このセリフの多さのためか、従来のキム・ギドクらしい映像の密度が本作からは少し失われているような気もした。ただそれは、前作『弓』(過去記事)を観たときにも近い印象を持ったことを考えると、セリフの扱いだけが原因というわけではないのかもしれない。『弓』とこの『絶対の愛』という2作品は、それ以前のギドク作品とは異なる文脈というかアプローチによって製作されているのかもしれない。今後、キム・ギドクはどこへ向かっていくのだろう。


posted by Ken-U at 13:00| Comment(2) | TrackBack(1) | 映画(キム・ギドク) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Ken-Uさん、こんばんは。TB&コメントありがとうございました。
映画監督の作風はいろいろあれど、キム・ギドクは常に新しい作風を
追い求めているタイプに入ると思います。
それこそ『絶対の愛』のストーリーのように、固定されたイメージを
持たれるのを何より嫌がっているのではないでしょうか。
一作ごとの評価もさることながら、作品を経るうちにどういう変化を
遂げるのか確かめるのも、キム・ギドク作品を見る楽しみになると思います。
ともすればキム・ギドクは映像だけで押し切るタイプの印象もありますが、
『受取人不明』では構成がしっかりした群像劇となっていました。
私たちが思う以上に、引き出しが多い監督なのかもしれませんね。
Posted by 丞相 at 2007年10月15日 23:17
たしかに、キム・ギドクは作風が揺れます。それは映画に触れずに育ったという彼のバックグランドと関係があるのかもしれません。
あと、本作では度たび主人公が「人はみな同じ」みたいなことを呟くのが印象に残りました。あのセリフと今回の作風は何か繋がりがあるのかな、などと勝手な妄想を膨らませたりして楽しんでいます。
Posted by Ken-U at 2007年10月16日 23:29
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『絶対の愛』〜顔面と内面のボレロ〜
Excerpt: 『絶対の愛』公式サイト 監督:キム・ギドク出演:ソン・ヒョナ ハ・ジョンウ パク・チヨン キム・ソンミンほか   【あらすじ】(goo映画より)交際を始めて2年になる男性ジウを深く愛..
Weblog: Swing des Spoutniks
Tracked: 2007-10-15 23:06
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