
夫の初乃輔は堅実な男として描かれている。冒頭で三千代から、株屋で株をやらないのはあなたくらいのものでしょう、と言われる。このセリフに、初乃輔の性格が集約して表現されているようだった。身なりは質素だけれども、靴にだけは気を遣っている。軽薄なところはないが、いい男(上原謙)だし、人あたりも優しいので女にモテる。かといって浮気心はない。軽薄な男達から持ちかけられる儲け話も断ってしまう。そんな男だ。
三千代は初乃輔と暮らす単調な日常にうんざりしている。初乃輔の給料が安いので、家計のやりくりが頭から離れることがない。こんな日常に埋もれたまま、人生が終わってしまうのではないか。そういう不安を抱えている。家事に追われる毎日から抜け出したい。そして自分の人生を取り戻し、謳歌したい。密かな願望を抑えながら、三千代は退屈な日常に耐え続けている。
そんな夫婦の家に、東京から初乃輔の姪にあたる里子が突然転がり込んでくる。里子は若くて美しく、奔放な性格を持っている。戦後の女性解放の流れに乗って、人生を楽しもうと生き生きとしている。
やがて里子と初乃輔の親しい仲に、三千代は心を乱されるようになる。そして単調な日常の中で保たれていた均衡は崩れ、夫婦の関係に亀裂が生まれてしまう。
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日常の中で起きる些細な事件を描いた作品。抑えた表現ながら、官能的なショットが散りばめられているのが印象に残った。原節子もとても色っぽく撮られている。初乃輔と里子の間の微妙な距離の描き方にしてもそう。当時の日本の男は静かに欲情したんじゃないだろうか。全体的に描き方が小津より記号的でなく、生々しい感じがした。特に男女の距離の描き方が。
物語としては、原節子演じる三千代が女の幸せを見つめ直す過程が描かれている。日常から離れ、東京の母親と妹夫婦が暮らす家に居候しながら、三千代はひとりで生き直す道を模索する。その障害になるのが、台風と共に再び現れる里子。しかし結果的には、三千代は里子のおかげで自分の道を見つけるんだけど。そして三千代の知り合いの未亡人の姿も、彼女の選択に大きく影響を与えている。
女性の解放が謳われる社会の中で、女が恋愛や結婚、そして仕事の間で揺れ動く。その姿には現在と通じるものがあるけど、状況はより難しいものになっている。