2005年09月06日

「妻よ薔薇のやうに」 金と情をめぐる家族の絆

成瀬巳喜男演出の「妻よ薔薇のやうに」を鑑賞。夫婦の別離にまつわる物語。

tsuma_bara.jpg舞台は東京。山本君子はオフィス街で働く現代的な女。精二という恋人もいる。

母親の悦子は歌人で、芸術に対してとても真摯な女性だ。自分の無意識と向き合いながら、浮かぶ言葉を短歌することに身を捧げている。弟子はいるが、月謝をとることはしない。とても禁欲的な暮らしをしている。ただ、関心が芸術にばかり向かっているので、他者と接することは得意ではない。

山本家に主はいない。父親の俊作は仕事と称して長野の山奥で暮らしている。彼の仕事とは、山中での金脈探し。金でひとヤマ当てようと企んでいる。しかし金は見つからず、企みは行き詰っている。そんな俊作を、お雪という女が献身的に支えている。ふたりの間には子供もいる。

*****

暗い闇の底から湧き出るものに魅力を感じるという点で、俊作と悦子はよく似ている。しかし、その湧き出るものが、カネに換えることが難しい言葉と、カネそのものである金脈であるという相違点が、ふたりの心を通じ合えないものにしているのかもしれない。俊作が悦子のことを、立派過ぎるから苦手だというのもよくわかる。俊作はとてもだらしのない男だから。

悦子は俊作を愛しながらも、意識は常に創作へと向かっているので、俊作とうまく対峙することができない。悦子の優先順位は芸術にあるのだ。俊作は、もはや東京の家に自分の居場所はないと感じている。そして俊作は、金脈があると信じる山へと向かう。自分の夢を山に託そうと決心するのだ。

俊作を支えるお雪の金に対する姿勢も興味深い。男のために、髪結いをしながら金を稼ぎ、生活を支えている。そして決して金には換えることのできない大切なものを守るために、生活費以外にも多くの金をつかっている。悦子とは違い、お雪の優先順位は愛する他者にある。その姿勢が俊作の心を動かすのだろう。


悦子と俊作、そしてお雪の間の複雑な関係が、深みを持って描かれていた。それに君子とお雪の娘、このふたりの間にある微妙な距離感も印象に残った。これまでに観た映画で2番目に古い作品(1935年)だったけど、古さは感じず、なかなか楽しめた。ただ、しょうがないとは思うけれど、映像や音声がかなり劣化しているのが残念だった。


posted by Ken-U at 19:27| Comment(0) | TrackBack(2) | 映画(成瀬巳喜男) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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『二人妻 妻よ薔薇のやうに』 ??成瀬の過渡期的実験??
Excerpt: 1935年 日本/P.C.L映画製作所 演出・脚本:成瀬巳喜男 撮影:鈴木博 音楽監督:伊藤昇 出演: 千葉早智子(山本
Weblog: キネマじゅんぽお
Tracked: 2005-09-24 23:46

「妻よ薔薇のやうに」〜なんとも煮え切らない父
Excerpt: 1935年日本監督/成瀬巳喜男出演/千葉早智子 丸山定夫 英百合子 伊藤智子   藤原釜足 大川平八郎砂金で一山当てようとしてもう何年も家を出たままの父(丸山定夫)は、元芸者の愛人(英百合子)と子供を..
Weblog: お茶の間オレンジシート
Tracked: 2006-02-06 17:04
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