2005年09月20日

「浮雲」 戦後日本が滅ぼしたもの

成瀬巳喜男監督の代表作、「浮雲」を鑑賞。この作品の高峰秀子も素晴らしかった。

ukigumo01.jpg戦時中、赴任先のインドシナで不倫関係に陥った幸田ゆき子と富岡兼吾。終戦後、ふたりはそれぞれ東京に戻る。そして居場所を失った男と女が、別れてはよりを戻しながら破滅していく姿が描かれている。

この作品を眺めているうちに、レオス・カラックスの「ポーラX」と、最近読んだ星野智幸の「在日ヲロシヤ人の悲劇」を思い出した。何故それらを連想してしまったのかを考えながら鑑賞したので、そのあたりから書き留めることにする。

*****

「ポーラX」との類似点は少ないと思うけど、主人公が堕ちていく過程で、白から黒へと世界が塗りかえられていくところは共通していると思った。

南国のインドシナは、太陽の光が眩しい白い世界として描かれている。城のような建物で暮らすゆき子は純白のドレスを身にまとっている。
東京でのゆき子は、最初こそ白いブラウスを着ているが、その後はグレーのコートや和服で身を包むようになる。
そして最後に屋久島へと渡る時、ふたりは黒いコートに包まれ、雨に打たれながら船に乗っている。日は照ることなく、強い雨が降り続いている。グレーを雨に濡らし、その黒さをより強調しているようにも感じられる。島に着いても天候は変わらず、ゆき子は暗い闇の世界の中、深いグレーの浴衣で身を包みながら床にふしている。

同じような南の土地であるにもかかわらず、インドシナと屋久島は対照的に描き分けられているのがとても印象的だった。

もうひとつは、分身というか、亡霊的な存在に翻弄されながら、主人公が身を堕とすところ。「ポーラX」はこの「浮雲」を参照しながらつくられたんだろう。描かれているものはずいぶん違うと思うけど。

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そして「在日ヲロシヤ人の悲劇」を連想したのは、この「浮雲」が、日本の近代化の中で滅んでいくものを描いた作品だからだろう。そして女が殺される物語だというところも共通しているように思う。

ゆき子は男に翻弄されながら堕ちていく。男が見た帝国の夢、そして男が始めた戦争に巻き込まれ、そこで出会った富岡に振り回される。
ゆき子が富岡に、日本の男なんてみんな同じだと言うセリフが印象的につかわれている。富岡は近代日本の象徴というか、もしくは亡霊のような存在なんじゃないだろうか。

富岡はいつも被害者ヅラをしながら、都合よく女を利用している。しかし罪の意識は持ちあわせていない。自分の都合ばかりを考え、むしろ女は気楽な生き物だとさえ考えている。だから堕ちていくゆき子に向かって「幸福そうだ」「うらやましい」などという残酷な言葉を浴びせかけることができる。ゆき子に限らず、富岡の妻や伊香保で知り合った人妻のおせい、この男に利用された女たちは、みな生死の境へと追い詰められてしまう。そして女は殺されていく。

そして女に引きずられるようにして堕ちていく富岡の姿に、戦後日本のあり様が重ねられているように見える。

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メロドラマの体裁を借りながら、成瀬監督が表わそうとしたものはなんだろう。
この国が、先の大戦を清算しないまま復興の道を歩んでいるという問題意識。そして急激に進む近代化の流れの中で、女というか、母性を殺し、排除しようとしているという危機感。そういう近代の暗部を描こうとしているように思えた。

そういえば、この作品が公開された1955年には、いわゆる55年体制が確立している。そして翌年には、経済白書に「もはや戦後ではない」という言葉がつかわれ、流行した。そういった時代の流れに対して、なにかしらの異議申し立てをしたのがこの「浮雲」ということなんだろう。

この作品は、戦後の成瀬作品の集大成であるという位置づけらしいから、この後、彼の作品がどう変わっていったのかという点に興味が向いてしまう。


posted by Ken-U at 00:24| Comment(2) | TrackBack(1) | 映画(成瀬巳喜男) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちわ、Ken-Uさん。
このレビュを読んで、私、以前から興味あった『ポーラX』に、ますます興味おぼえました。
ぜひ、いつか観てみたいです。
ゆきこのファッションも、本当に素敵(とくにコート姿は印象的)」でしたよね。
社会全体の変動とリンクさせてて、本当に読み応えありました
Posted by noho_hon at 2005年09月26日 10:18
noho_honさん、コメントありがとうございます。

「ポーラX」はカラックスが好きな方にはいい作品だと思います。ただ、この「浮雲」を超えてはいないと思いますが。ちなみに、ぼくはカラックスが好きなほうだと思います。

戦後日本の変容とともに、成瀬作品のテイストも変わっていくところに興味を持ってしまいます。研ぎ澄まされ、凄みが増していきますね。厭世的な匂いも感じてしまいますが。
Posted by Ken-U at 2005年09月26日 13:09
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Excerpt: 先日、『放浪記』における高峰秀子の「ガラスの仮面」ぶりに唸ったので、そういう興味から、チェックしたんですが… 美人というより、ほとんど、怖いぐらいキレイッ! あまりに毅然とした、他を圧する美貌に..
Weblog: のほほん便り
Tracked: 2005-09-26 16:19
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