女は、息子を連れて夫の故郷に移る。その街の名は密陽といった。

彼女は二重の意味で主を失ってしまう。夫を亡くし、夫の不在を埋める存在として信じた神からも裏切られてしまうのだ。それまで信じていた人生の意味すべてを失った女の目に、この世界はどのように映るのだろう。この作品は、彼女がすべてを失い、その後、この世界と新たな関係を築くために第一歩を踏み出すまでの過程を描いている。目に見えるものだけがこの世のすべてなのだろうか。この人生になにか特別な意味はあるのか。この世を生き延びるために絶対的な主は必要なのだろうか。本作が映像を通して投げかける問いは深く重く、すぐにその答えを求めることは難しい。とはいえ、それらは人生のある局面で誰もが突きつけられるものばかりである。
意識を引きつけて離さない濃い映像と、重く難解なテーマを扱っていながら娯楽性を保つ巧みな脚本が素晴らしく、韓国映画らしいとても力強い作品に仕上げられている。上映後に行われたイ・チャンドン監督とのQ&Aも含め、答えの出ない多くの問いについて考えるよい機会になったが、それが答えを出せない問いであったがゆえに今ここで言葉にできることは限られている。本作は太陽を主の象徴として扱っていたけれども、沈黙を守り続ける太陽の背後にはきっと多くの秘密が隠されているのだろう。
自分は夫の不在というよりも、「父の不在」を強く感じました。
言葉にできなかったり、答えのでないこと、即ち「目に見えないこと」について描き出した映画だったと思います。
イ・チャンドン監督との質疑応答に参加されたのですね。
監督は、とても厳格な方だと感じているのですが、実際の印象はいかがでしたか?
よろしければ教えて下さい。ではでは!
「父の不在」ですか。ぼくはシネと父親との間にあった確執について見落としていました。となると、夫は父の不在を補う存在だったのでしょう。しかし、彼女の夫にも問題があったし、なにより妻と子を残して先に死んでしまった。そうして独り残されたシネが、太陽の位置からこの世を見下ろす絶対的存在である神に依存する気持ちもわからなくはありません。彼女が求める「おとこ性」はヴァーチャル化していく。そしてその一方で、彼女は近寄ってくるリアルな男を遠ざけようとします。
「父の不在」と「おとこ性の排除」による現代女性の生き辛さ。この作品は、シネの姿を通してこの世界が抱える息苦しさのようなものを描こうとした作品なのかもしれませんね。
私はネットで監督のQ&Aを読んだのですが、監督は、
人が困難に直面したとき、そこに何らかの意味を見い出す態度
そのものが「宗教的」であると語っていますね。
私はもろもろの困難に対しては、いたって現実的に処理するタイプ
なので、この作品が『オアシス』ほどのインパクトを受けなかったの
だと思います。
『シークレット・サンシャイン』と同じような物語の日本映画として、
ちょうど今は『ぐるりのこと。』が公開されています。
私は成瀬巳喜男に通じる作品の雰囲気を感じたのですが、
私よりずっと成瀬作品に造詣が深いKen-Uさんがご覧になれば、
どのような印象を抱かれるのでしょうか。
よければ『ぐるりのこと。』もご覧になってみてください。
遭遇する困難が極端に不合理であるとき、人間はおのれの非力に気づき、超越的な力への信仰へと心を大きく傾けるのかもしれません。
丞相さんのブログを拝見して、『ぐるりのこと。』が気になりつつあります。たしか、イ・チャンドン作品との出会いも丞相さんのお薦めがきっかけだったなあ、なんてことを思い出したりもしました。
「虎猫の気まぐれシネマ日記」のななと申します。
DVDでこの作品を観て深い感銘を受けました。
>目に見えるものだけがこの世のすべてなのだろうか。
>この人生になにか特別な意味はあるのか。
>この世を生き延びるために絶対的な主は必要なのだろうか。
監督さんが投げかけてくる問題はそこなのですね〜。
私は実はクリスチャンなのですが
この作品で描かれている神や信仰や赦しなどのまさに答えの出ないテーマについて
主人公のシネの気持ちも実によく共感できました。
シネほどではないにせよ,神に怒りや幻滅を抱いた体験はあります。
それでも神の存在は否定できない・・・信者のジレンマのようなものも描かれていたように思いました。
今年一番心に重く残る作品となりました。
長々と失礼いたしました。
ななさんはクリスチャンなんですね。ということは、この作品を観ていてとても複雑な想いがしたんじゃないかと想像します。超越的な力を持つものが自分の外部に存在する。という考え方には一長一短あるんでしょう。そうしたものの考え方は、人間を自由にもすれば、不自由にもするのだと思います。きっと、そうした答えの出ないテーマに思い切りぶつかっていく姿勢がこの作品の魅力なんですよね。
この作品は、僕の心にも深い痕跡をのこしています。いい映画だと思います。