2005年09月25日

飛礫 石を投げるという行為

韓国の映画監督、キム・ギドクの作品を観ると、「石」の扱われ方がとても印象に残る。

「サマリア」(過去記事)では、父親が、娘のからだを買った男に向かって石を投げたり、石で相手を殴り殺してしまう。ラスト近くでは、山に入った父親が、河原の石の中に娘を埋めるという、死と再生の儀式のようにみえる幻想的なショットもつかわれている。

「春夏秋冬そして春」でも、石が重要な役割を果たしている。寺で育てられている子供が、動物の身体に石を結び付けて殺してしまった罰として、僧侶から石を身体に結び付けられてしまう。その罰をきっかけに、彼の人生には何か重いものが圧しかかってしまったようにみえる。

これらの作品を観ていると、「石」から放たれる不思議な力が感じられる。人間の業や情動、またはそれを超えるような力というか。太古の昔から現在に至るまで、人間は石に超越的な力を感じてきた。昨秋、「春夏秋冬…」を観て以来、「石」の持つイメージが頭の中をいつまでもぼんやりと漂っている。

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ikei_no_oken.jpg人間と石との不思議な関係といえば、中沢新一氏の「精霊の王」を読み返すと面白いのかもしれない。しかし、ここのところ読書の時間がとれてないので、まずは網野善彦氏の「異形の王権」、その「中世の飛礫について」の章だけをつまんで読んでみた。

石を投げる、飛礫を打つ。この単純きわまる人間の行動は、それが単純であるだけに、人間の本源と深く関わっており、飛礫・石打ちにまつわる習俗は、民族をこえて人類の社会に広く根をはり、無視し難い大きな役割を果してきた。

この章では、日本の中世から残る飛礫の記録を通して、神事としての飛礫とその背景、とくに、飛礫と悪党・非人の結びつきについて多くの指摘がされている。
さらに、飛礫の記録を遡ると、武器として現れるのが弥生時代であることや、その後、飛礫の記録が西日本に集中して残されていることなどから、この国の飛礫と朝鮮半島との繋がりについても触れられている。

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飛礫とは少しずれるけれど、成年戒を受ける若い男を河原に多い小石の中に埋めるという儀式もあったそうだ。この儀式は「サマリア」における埋められた娘のショットとイメージが重なる。ギドク監督がそれを意識したのかどうかはわからないけど。

飛礫に限らず、石と人間の繋がりはとても深く、その歴史も古いものなんだと思う。人間が人間になった時からの深い付き合いがあるんだろう。また、石をめぐるこの国と朝鮮半島の古い歴史があるというのも興味深い。また少し時間をとって、人間と「石」の歴史を眺めてみたい。

キム・ギドクの次作に「石」は出てくるんだろうか。劇場公開はいつなんだろう?来年になるんだっけ。


posted by Ken-U at 10:27| Comment(4) | TrackBack(1) | 書籍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Ken-Uさん、こんばんは。
キム・ギドクの次回作『空き家(3-iron)』は
すでにどこかの配給会社が買い付けているので
公開されるのは間違いありません。おそらく来年になるでしょうか。
私は韓国版のVCDで一足先に見たのですが、テイストとしては
『サマリア』に近いものがありますね。
詳しくは言えませんが、「石」からさらに進化したものが登場します。
というか、Ken-Uさんの上の記事のとある部分が、これ以上ないくらい、
『空き家』に登場する「石の進化形」をズバリと言い当てています。
劇場公開されたときにぜひ確認なさってください。
Posted by 丞相 at 2005年09月26日 23:10
丞相さん、コメントありがとうございます。

『空き家』、もうご覧になってるんですよね。「石」から進化したものですか、危ないですね。現代的な話のようで、「石」の出番はどうかな、と思っていました。
公開されれば必ず観る作品ですから、その時を楽しみにしています。
Posted by Ken-U at 2005年09月27日 02:44
こんにちは。TBさせてもらいました。
「春夏秋冬そして春」においても、
たしかに石はかなり重要なモチーフのようですね。
っていうか石くらいしか出てきてないともいえますが。

全体としては、もっと監督として言いたいことがあったように思えます。出し切れてないカンジがあったような。。。

次に期待します。
Posted by じー太 at 2005年10月09日 03:26
じー太さん、こんにちは。

「春夏秋冬そして春」は1年近く前に観たっきりなので、内容はぼんやりとしか憶えてないのですが、『サマリア』と同様に、「死と再生」というテーマが大きく扱われていたように思います。
ギドク作品は多義的な側面があるので、作り手の考えが掴みづらいところがありますね。繰り返して観るることで、新しい発見があると思いますよ。
Posted by Ken-U at 2005年10月09日 11:51
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しんゆり映画祭見に行きました。
Excerpt: こんにちは。今日(10/8)はちょっと時間があったので、しんゆり映画祭まで行ってきました。 見たのはキム・ギドク監督の「春夏秋冬そして春」。いわゆる韓流のあま〜〜い雰囲気ではなかったです。 未完成..
Weblog: くだらないことに愛を込めて・・・blog
Tracked: 2005-10-09 03:21
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