*****
表と裏、あるいは、光と影の世界が交錯する境界的な領域からは、多くのドラマが生み出される。いわゆる”刑事もの”も、この境界領域を舞台にした作品群だといえるんじゃないだろうか。”善”と”悪”が複雑に絡み合った世界。その境界領域を職場とする刑事たちの姿からは、人を超えた何かが感じられる。作品中、刑事が英雄的に描かれることが多いのは、彼らの仕事から超越的な何かを感じてしまうことと繋がっているように思われる。

そして病院のシーン。撃たれた男たちが病院に運び込まれ、処置を受ける様子が執拗に撮られている。そこがとても興味深かった。そしてブリットが病室をゆっくりと歩き回る。ベッドに横たわっているのは、生命維持装置をつけられるような重症患者ばかりだ。これらのシーンでは、刑事が生きる世界が、”善”と”悪”だけではなく、”生”と”死”の境界領域でもあることが示されているようだった。
*****
ところで、影を描くからジャズなんだろうか。この作品では、オープニングからジャズが効果的につかわれている。オープニング・ロールも、BLUE NOTEのジャケット・デザインを連想させるようなスマートなものだ。ジャズから”黒”を読み取れということなんだろうか。黒人の音楽という意味で。
黒人の配置のされ方でいうと、病院で処置を担当する医者が黒人だった。患者を挟んで右側が黒人の医者と看護士、左が白人の医者と看護士というショットもあって、このあたりの表現方法はどうなんだろうか、とも考えた。
*****
クライマックスのカー・チェイスのシーンもいいんだけど、恋人との関係の描き方にも惹かれるものがあった。
恋人のキャシーはとても美しいんだけど、とても理論的な人間として描かれている。彼女がいる世界とブリットの世界の間には大きな溝があって、あることがきっかけで、彼女はその現実に直面してしまう。そこで彼女が抱えてしまったものは、ブリットを苦しめる。その苦悩はラストへと繋がる。光と女、そして拳銃のショット。手を洗い、鏡を見つめるブリットの姿。その表情。
善と悪、生と死の境界で生きる男の影、苦悩がとても印象的に撮られている、なかなかの作品だった。