2005年11月01日

「アワーミュージック」 隔たれた世界を繋ぐもの

ジャン=リュック・ゴダール監督『アワーミュージック』 (日比谷シャンテ)

原題:『NOTRE MUSIQUE』。

notre_musique.jpg冒頭から10分間、戦争に関する様々な映像がスクリーンに映し出される。フィクションとドキュメンタリーが混在した、映像のコラージュ。戦場で戦う兵士たち、あたりには多くの死体が転がっている。死体は血まみれだったり、焦げて膨れあがったりしている。「地獄」と題された第1部が、この作品の入り口となっている。

そして第2部の「煉獄」。ジャン=リュック・ゴダールがゴダール自身として出演している。そのほかにも、本人役で出演している芸術家が数名いる。彼らは自身の言葉を語っている。しかし、この作品はドキュメンタリー・フィルムとして製作されているわけではなく、かといってフィクションというわけでもない。あるいは、ドキュメンタリーであり、フィクションでもあるようにつくられている。

複雑な歴史を抱える街、サラエボが第2部の舞台となる。歴史に引き裂かれたこの街で開かれる「本の出会い」というイベントで、ゴダールは講演を行う予定になっている。そこに集う人々によって、「煉獄」は紡がれる。サラエボの街に、イスラエルとパレスチナの対立が重ねられる。さらにネイティブ・アメリカンと白人の関係も。

「本の出会い」では、文字について多くが語られている。文字が紡がれることで物語が生まれ、歴史がつくられる。フィクションが生み出される。文字と戦争は、深い繋がりを持つ。文字を持たない未開社会には歴史もなく、大量殺戮を伴なう戦争も必要とはしてないのだから。

デスクの前に腰掛け、本にしがみついている白人がいる。彼の前にネイティブ・アメリカンのふたり組みが現れ、言葉をかける。しかし白人は反応しない。ここでは、白人(=近代・文字社会)と、ネイティブ・アメリカン(=未開・神話的社会)の間に横たわる断絶が、象徴的に描かれている。

対立関係、あるいは支配・被支配の関係によって隔たれた世界。その断絶が、サラエボを舞台に幾重にも重ねて描かれている。しかしゴダールは、この重層的な断絶を、観る者の目の前に放り出すだけではなく、むしろ映像作家として繋ぎ合わせようとしているようにみえる。この作品自体が、フィクションとドキュメンタリーを繋ぎ合わせ、融合させながら構築されているところに彼の姿勢が象徴的に示されているようだった。

映画とは何か。彼の言葉は示唆に富んでいる。破壊的な時代には、破壊に匹敵するような創造の革命が必要とされる。暗闇に向かい、新しい旋律を生み出すこと。この時代を生き延びる個人が、身の丈に合ったかたちで、あるいは少しだけ背伸びをしながら、その姿勢をみせること。そうして生み出される旋律の集合体が、「アワーミュージック」なのかもしれない。

*****

出会えてよかったと思える作品だった。繰り返し鑑賞したくなるような。ただ、ほかのゴダール作品と同様、受けた印象を言葉にすることが難しい。とりあえず、今の時点で思い浮かんだことを書き留めておく。
posted by Ken-U at 23:20| Comment(2) | TrackBack(7) | 映画(フランス) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは、TB・コメントありがとうございました。
「非対称性」という言葉を強調しているように、ゴダールはあくまでも(ポスト)モダニスト路線を押し進めていくようですね。いったん物事を断片まで分解して、その順列組み合わせから新たなものを創造するべしという、メッセージがあるようにも感じました。
ゴダール作品のほかの作品も、いずれは最近のものから見ていきたいと思います。
Posted by 丞相 at 2005年11月05日 10:17
丞相さん、わざわざこちらにまでコメントありがとうございます。

ゴダールの作品は、映像と言葉、音楽のコラージュで成り立ってますが、それが必ずしも順序だった物語の体裁をなしていないので、その意図を掴むことは難しくなってしまいますね。

この作品を観て思ったのは、これはいわゆる映画というよりも、音楽や詩に近いものなんじゃないかということなんですが、人間の闇、つまり無意識の領域に深くアプローチしながら何かを表現するために、ゴダールはこういったスタイルを選んだということなんでしょう。

暗闇の中に一筋の光を投射して、眼には見えないはずの映像を見せる。映画という装置は、原始の時代の洞窟に描かれた壁画にも似ているな、ということを感じました。この前鑑賞した港千尋展のせいもあると思いますが。

掴みづらい作品なだけに、いろいろと考えさせられてしまいます。おそらく繰り返し観るたびに、新しい発見があったり、理解を修正させられたりするんでしょう。たまにはこういう作品を鑑賞して刺激を受けるのもいいもんですね。
Posted by Ken-U at 2005年11月05日 12:25
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