2005年11月15日

「コースト・ガード」 引き裂かれた半島が抱える痛み

キム・ギドク監督 『コースト・ガード』

日本では希薄になってしまった何かが、まだあの国には残っている。韓国の映画を観ていると、そういった印象を受けることが多い。民族や宗教観の違いがそうさせるのかもしれないけれど、戦争によって残された傷跡が、より大きな違いを生み出しているのだと思う。

大戦終結後も、あの半島では戦争が続けられた。その過程で、あの半島は南北に引き裂かれてしまっている。南北の間に引かれた38度線という境界は、あの戦争の悲惨さと、その悲劇がまだ終わってはいないという現実を表している。

一方、この日本は、半島を舞台とした戦争から多くの富を得ることによって大戦後の復興を早めることに成功した。そして、38度線が引かれてから数年の後には、既に「戦後」を脱したという宣言がなされるのである。もう「戦後」ですらないという日本と、まだ戦争を終わらせることができない朝鮮半島との隔たりは、とても大きいもののように思えてしまう。

*****

coast_guard00.jpg半島を南北に仕切る38度線、海に臨む国境地帯が物語の舞台となっている。そこは北からの侵入者を防ぐための特別な領域となっていて、軍隊の監視下にあり、民間人は立ち入ることを固く禁じられている。さらに、その境界域には、夜間の侵入者を無差別に射殺するという立て看板が立てられている。

特殊な境界域の近くには漁村がある。その村で暮らす若者ヨンギルは、ミヨンという娘と互いの想いを寄せ合っている。ある晩、泥酔したふたりは、立ち入りを禁じられた領域に踏み入り、浜辺で互いの気持ちを確かめ合おうとする。

カン・ハンチョルはその境界域で兵役に就いている。その晩、警戒域を監視していたカンは、侵入者を見つけると、即座に銃を構え、引き金を引く。放たれた無数の銃弾は、ミヨンの中にペニスを出し入れしているヨンギルの背中をつらぬき、彼の体を血にまみれた肉片へと変えてしまう。飛び散る血飛沫を浴びながら、ミヨンは泣き叫び、半狂乱状態に陥るのだった。

*****

ミヨンは恋人を失い、カンは軍から退く。その後は、ふたりが心を病み、そして生きながら亡霊となって、この境界域に関わる者たちを引き裂こうとする様子が描かれていく。そこで繰り返し描写されるのは、引き裂かれる者が受ける強烈な痛みである。そしてその痛みは、頭を叩き潰されながら身を引き裂かれたり、あるいは、釣り糸を咥えさせられたまま浜辺を引き摺り回される魚たちの姿にも重ねられている。

さらに、敵の不在。38度線を舞台にしていながら、この物語には敵であるはずの「北」の兵士たちの姿がない。兵士たちは、敵の侵入に備えているけれども、その敵が姿をみせることはない。彼らは、敵の幻影に翻弄されているに過ぎないのだ。

*****

キム・ギドクの作品といえば飛礫である。この作品の中でも、侵入者を射殺したことで表彰され、休暇を得たカンに向かって、ひとつの飛礫が打たれる。その飛礫はカンの頭に当たり、カンは流血する。

飛礫が打たれるシーンはこの1度だけだったけれど、この作品自体がキム・ギドクの飛礫となっているように感じられた。そして、その飛礫はこの作品を観る者に向けられているのだと思う。街頭で銃を構えるカン・ハンチョルの姿は、観客に向かって飛礫を打つキム・ギドク監督の姿と重なってみえる。

本作は、南北が争う姿を排除しながら、引き裂かれた半島が抱える痛みと、その不合理に対する強い怒りを見事に描いていると思う。


posted by Ken-U at 22:33| Comment(10) | TrackBack(6) | 映画(キム・ギドク) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Ken-Uさん、こんばんは。
この作品も、かつてのキム・ギドクらしい「怒り」に満ち満ちていましたね。
キム・ギドクは個々の人よりも、そういう状況を作り出した原因に
怒っているように思います。
それが頂点に達するのが『受取人不明』なのですが、
これまたとんでもない作品です。
12月初めにレンタルされるようなので、またご覧になってみてください。
Posted by 丞相 at 2005年11月15日 23:00
丞相さん、TB&コメントありがとうございます。

おっしゃるとおり、半島が置かれた状況に怒りを覚えているんでしょうね。
ただ、カン・ハンチョルが街頭で銃を構え、ひとりの男を刺してしまいますよね。あれを見ると、その怒りを民衆にぶつけようとしているように思えてしまいます。自分と世間との間に、大きな感情のギャップを感じていたのかもしれません。

『受取人不明』も必ず見るつもりです。情報ありがとうございます。
Posted by Ken-U at 2005年11月15日 23:33
はじめまして。TB&コメント失礼します。
すみません、TBがなぜか文字化けしちゃいました。
最後の、銃口を真正面から捉えたシーンは、
僕も観客に向けられているような気がしてなりませんでした。
狂気は伝染すること、すぐ近くに潜んでいること。
その恐怖を感じました。
Posted by 現象 at 2006年03月13日 21:04
現象さん、はじめまして。

”狂気”と呼ばれるものは意外と身近にあるのかもしれません。それに自覚症状もなさそうです。狂ってしまわないように気をつけたいものですね。
Posted by Ken-U at 2006年03月13日 22:37
ごめんなさい。
再度チャレンジしてみたんですが、
また文字化けしてしまいました。
Ken-Uさんのブログを汚してしまっているようで、
非常に申し訳ないです。
削除していただけますか。
後日、また、TBさせてください。
お手数かけて申し訳ありません。
Posted by 現象 at 2006年03月14日 01:15
こちらから申し出たことなので気にしないでください。TBは削除しました。

でも、不思議ですね。これまでこんなことはなかったんですが。
Posted by Ken-U at 2006年03月14日 01:35
先ほど別の記事で、他のシーサーのブログにTBを送らせてもらったんですが、
それも文字化けしてしまいました。
どうやらうちのアメーバが最近ダメなようです。
以前はこんなことなかったんですが…
また挑戦しようと思っていたのですがやめときます。
今後ともよろしくお願いいたします^^;
Posted by 現象 at 2006年03月16日 16:19
原因はよくわかりませんが、シーサーにも問題があるのかもしれませんね。
こちらこそ、今後もよろしくお願いします。
Posted by Ken-U at 2006年03月16日 19:01
こんばんは
社会的メッセージ色の強い作品でしたね。ラスト(街頭のシーン)には、監督が映画にかけるド真剣な姿勢が伺えました。標的を真正面に見据えるカン上等兵のまなざしは、キム・ギドクのまなざしなのかも知れません(他の監督なら気恥ずかしくて撮れないシーンだろうな、と思ってしまいます)。
また、狂気を抱えてしまったミヨンに美しさを感じさせる映像にも感嘆しました。
Posted by 朱雀門 at 2006年03月31日 01:07
仰るとおり、カン上等兵の眼差しはキム・ギドクの眼差しそのもののように思えます。その魂をあからさまにスクリーンにぶつけようとするキム・ギドクの真摯な姿勢は、観る側の心を大きく揺さぶってしまいますね。
Posted by Ken-U at 2006年04月01日 15:45
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