2005年11月18日

「バルスーズ」 母性回帰の旅

ベルトラン・ブリエ監督の『バルスーズ』('73)を鑑賞。母性回帰の旅を描いたロード・ムービー。

荒廃したフランスの田舎町。荒涼とした団地の敷地内で、中年女を追い掛けまわしているピエロとジャン=クロード。ふたりは仕事にも就かず、必要なモノ、カネは盗みを働くことで賄っている。女が欲しいときは、美容院で働くマリー=アンジュに会いにいく。彼女は抵抗することもなくふたりを受け入れるが、そこに悦びはない。ただ乾いたセックスがそこにあるだけだ。

コンクリートで塗り固められた巨大な団地やショッピング・モール。乾いた世界に閉じ込められている若者は、もがき苦しんでいる。ふたりは生まれながらにして、すでに多くのものを奪われてしまっているようにみえる。彼らに残されているのは、暴力への衝動だけなのかもしれない。だから彼らは奪い続けるのだろう。彼らにしてみれば、奪われてしまったものを奪い返しているだけなのだ。
フランスに飛礫を打ち、ふたりは乾いた世界から抜け出そうとする。そして彼らの旅が始まる。

*****

ふたりにはあらゆるものが欠けているけれども、最も深く欠落しているのは母性だ。だから追い回した中年女の出産経験に拘るし、子供に母乳を与えている女に絡んでは、カネと引き換えに乳房を吸わせてもらうのだろう。

les_valseuses02.jpg旅の途中、ふたりはある壮年の女とすれ違う。この出会いはふたりが通過する儀式のようになっていて、ここから物語のトーンが微妙に変化していく。浜辺で海を眺める3人のショットが象徴的に描かれている。やがてその海は満潮を迎える。そして3人は交わり、儀式の後、女は消える。ふたりが生まれ直す様子がここでは描かれているようだった。

女とすれ違った後も、ふたりの運命に変わりはなく、果てのない旅は続けられる。ただ、あの無縁の女との出会いによって、何かが変化した。まず女性との関わり方が変わった。マリー=アンジュはふたりの「娼婦」から「恋人」へと昇格し、ふたりの旅に加わって、初めてのオーガズムを経験する。そして3人は水の溢れる森の中へと移動する。山の自然の中へと入っていく。この山(と水)は母性を象徴しているのだろう。

*****

前半は、苦しさが痛いほど伝わってくるので辛くなってしまう。ただ後半からトーンが変わり、ラストはハッピーエンドで結ばれているようにも感じられた。何も救われてはいないけれども、何かが救われたような気がしてしまう。そこがこの作品の魅力になっているんじゃないだろうか。

[M]さんのおかげでこの作品のことを知ることができた。感謝感謝。
posted by Ken-U at 19:05| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画(フランス) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Ken-Uさん、こんにちは。
私がお礼を言うのも変ですが、観ていただきありがとうございます。

ご存知かもしれませんが、パトリック・ドヴェール(写真右)は、この数年後に自殺してしまうんですよね。他の出演者は皆大物になりましたが。映画とは直接関係ありませんが、本作を思い出すとき、私の中では切り離せない事実として記憶に残っています。ちょうど『イル・ポスティーノ』のマッシモ・トロイージが、撮影終了直後に無くなったことと同じように。

私としては、ジャンヌ・モローが出てきて以降により惹かれます。人気の無い海辺のレストランで3人で食事するシーンが凄く好きでした。あの山奥のロケーションも、何だか神秘的で印象的でした。

お薦めした甲斐がありました。あらためてありがとうございました。
Posted by [M] at 2005年11月21日 09:37
[M]さん、

パトリック・ドヴェールの自殺については知りませんでした。それを知ると、その死がこの作品に重なってしまうというのも頷けます。たしかに、マッシモ・トロイージの死も感慨深いものでしたね。

ぼくも[M]さん同様、ジャンヌ・モローが出てきて以降が好きですね。前半は観ていて痛々しく、辛かったです。3人で行動する一連の流れは儀式のようでした。彼女があのふたりに潤いのようなものをもたらすんですよね。作品の雰囲気が大きく変わりますね。それから山に入り、自然の中を旅するところも気に入りました。

こちらこそ、お薦めしていただけなかったら観なかった作品だと思うので、感謝しています。ありがとうございました。
Posted by Ken-U at 2005年11月21日 12:14
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/9497901

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。