
土手の下、平屋の並ぶ貧しい住宅街が舞台となったコメディ。そこに住んでいる母親たちは噂好きで、無駄口ばかり利いている。そんな彼女たちの下世話な姿を描きながら、この喜劇は幕を開ける。
質素に暮らす林敬太郎とその妻、民子。ふたりの息子はその暮らしぶりに不満を抱えている。家の中にはTVがない。夕飯は毎日さんまの干物と豚汁。母親に文句を言っても聞き入れてはもらえない。TVの誘惑に負けて習い事の英語をサボり、隣に住む水商売風の若い夫婦のところに上がり込んではTVを観ている。それを母親に咎められたことで子供たちの不満は爆発し、彼らは今後誰に対しても無言を貫くと宣言する。
口を利かなくなったのは、長男の実が敬太郎から無駄口が多いと叱られたから。TVが欲しい、さんまの干物は嫌だと文句ばかりでうるさいと。実は、大人も「お早よう」だの「天気がいいですね」だの無駄なことばっかり話していると反論する。そういった口論の末、実は弟の勇を巻き込んだうえで無言宣言をする。
たしかに大人は無駄なことばかり口にしている。でも無駄があるからいいんじゃないか。余計なことがなくなったら、世の中味も素っ気もなくなってしまう。無駄なことが潤滑油になって、世の中は回っているんじゃないか。と、子供たちに英語を教えている平一郎は言う。ここが小津監督のいいたいところなんだろう。
この物語も、無駄なものによって紡がれている。噂話、TV、押し売り(無駄なものを売りつける)、オナラ、そして天気についての会話などなど。最後は敬太郎が、無駄だと思っていたTVをついに買うことで息子たちの機嫌が直る。そして家庭内に平和が取り戻されていく。そんなありふれた日常を切り取りながら、軽妙な喜劇に仕立てている。
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