海に近い、スコットランドの田舎町。リアムは学校にも行かず、親友のピンボールと町で煙草売りをしたり、小さな悪事を働きながら毎日をやり過ごしている。母親は刑務所に入っていて、彼は祖父とスタンという母親の男の3人で暮らしている。麻薬の売人であるスタンとはうまくいっておらず、いざこざが絶えない。
ある日、リアムはスタンと大喧嘩をしてしまい、家を飛び出し、姉のところに転がり込む。その姉は家族と別居していて、ひとりで幼い子供を育てながら、まっとうな暮らしを目指しているのだった。

彼と世界との距離は、「双眼鏡」や「携帯電話」によっても表現されている。
冒頭、彼は星を覗き見ている。暗闇の中に光る土星の姿。きらきらと輝いている世界との絶対的な距離を、彼は感じる。その世界に流れている時間は、リアムの世界のものよりも圧倒的に速いものだという。リアムは、自分の人生が果てしなく長いものだと感じる。
続いて双眼鏡に映し出されるのは闇の世界。といっても、それは宇宙ではなく、すぐそこにある麻薬売買の世界である。リアムは、母親と暮らす新居を購入するために、その闇の世界に足を踏み入れることを決意する。
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闇の世界から母親を救い、自分の人生を立て直すために、リアムは闇の世界に足を踏み入れる。矛盾を孕んだ彼の企ては、うまくいくようにも思えたが、現実はそう甘くはなかった。彼に突きつけられた結末は、あまりにも残酷なものだ。肉眼では見ることのできない母親との絶望的な距離を、彼は思い知らされてしまう。
さらに闇の世界は、彼に残されていた僅かなものをも奪ってしまう。ラストを眺めていると身につまされる。彼が手にしている携帯電話と繋がるもの。そこから聞こえるかすかな声。なにもかもがリアムから遠ざかってしまった。目の前に広がる冷たい海が意味するもの。そこから未来を見出すことが彼にできるだろうか。16歳の誕生日を迎えた彼にできるのは、その海を呆然と眺めることだけなのかもしれない。そこから始まる新たな旅の行く先は、彼自身にも見えてはいないのだろう。